第139話 感想戦 Post-Game Analysis

文字数 2,171文字

「さあ! 大変なことになってまいりました!! オポポニーチェの前に全チーム壊滅! 完全勝利です!! 強い! 強すぎます! オポポニーチェ・フラテルニタティス! 穢れた薔薇の伝説は本当でした!!」クーの司会にも熱が入る。
 ワイアヌエヌエ・カジノの1階では、多数の客、特に黄金薔薇十字団に賭けていなかった客たちが文句を言う。ダイナゴンがマイクを向けるまでもない。解説席にも響くほどの大声だ。
「おいおい。Cランク戦だろ? なんでこんなレベルの選手が入ってんだよ」
「途中でバギーが止まるのはおかしいだろ!」
「委員会は何故、こいつを入れたんだ?」
「賭けが成立しねーじゃねーか!」
ーー非難されているのは盛り上がっている証拠だ。怒号にめげることはない。正しい方向に向かっている。次にまた盛り上がる場面がくれば、客たちの怒りは歓喜に変わる。人間はそういう生き物だ。
 クーは気にせず解説を続けた。
「集計が出るまで少し待ちましょう。マックス・ビーさん。3回戦はどうでしたか?」
 マックス・ビーは、白い短髪頭をひと撫でして唸った。
「うーむ。これは強い。彼は錬金術を使っているな」フタバを見る。
「だね」フタバも渋々と同意した。
「錬金術ですか?」クーも何となく知っている。Aランク戦では何度か見た。さらに黄金薔薇十字団は錬金術師ギルドだ。不思議な事象を見せられれば、錬金術を使用してないと考える方がおかしい。
 だが、客のために説明を求める。
「うむ。彼と直接対決する時、相手の動きがおかしすぎる」マックス・ビーが答えた。
「というと?」
「タンザやビンゴは言うに及ばず、カンレン、カンショウ、イノギンも一流戦闘者の域に達している。動作に無駄がない。だが、オポポニーチェと闘う時だけは動作が雑になる。ひとつのミスが死に繋がる戦場で、これはあり得ない」マックス・ビーは力説する。
「例えば、どんなところが雑でしたか?」
「うむ。カンレンとカンショウは見当違いの方向を攻撃していた。隣にオポポニーチェがいるのにも関わらずだ。イノギンも、手で押さえていた鈴をわざわざ差し出した。しかもドゥームバギーからも転落。そしてエスゼロ。彼女に至ってはオポポニーチェに抱っこをされていた。あんなことは絶対にありえない」
「それは錬金術なのですか? 錬金術は金を作る技術では?」
 聞かれると言い淀む。マックス・ビーは錬金術師ではない。不思議な技だということは分かっているが、細かい説明ができない。
 フタバは助け舟を出した。
「錬金術は、卑金属を金に変えるだけの技術じゃない。何かを変性させる技術全般を指すんだよ」
「変性させる、ですか?」クーが尋ねる。
 錬金術師は、「錬金術に関して出来るだけ話してはいけない」というルールがある。
ーードープ・ファンタジーのことは話せないよね。
 フタバは解説者として、最低限の情報だけを出すことにした。
「そう。例えば、ボールペンを100ドル札に変える」
 解説席に置いてあるボールペンを手にとる。
 息をかける。
 一瞬にして100ドル札に変わる。袖の下にボールペンを落とし、あらかじめ手に持っておいた100ドル札を見せる、それだけの簡単な手品だ。
「おおっ」
 遠くから見るとネタは分からない。客はフタバに歓声を贈った。
「オポポニーチェもこんな感じで、現実空間を幻影空間にでも変えたんじゃないのかな?」
「錬金術は、そんなことまで出来るんですか?」クーは驚いた。
「うん。ただ、錬金術師なら誰でも出来るわけじゃない。少し前までKOKの一員だったイノギンは使えないでしょ? これは錬金術の中でも高等技術だと思う。オポポニーチェは凄いよ」もちろんフタバも使えない。心からの賞賛だ。
「Cランク戦でこんな錬金術を扱える選手がいるだなんて。他の選手には酷だな」マックス・ビーは客の反応を見ながら、自分が批難されないようなコメントを呟いた。
「そう?」フタバはわざと、わかっていたという声と顔を作った。
 選手1人だけが強すぎるなんて言えば、客の非難を助長させる。Cランク戦にAランクの選手を入れたことを認めてはいけない。ザ・ゲーム委員会に雇われているのだ。雇用主の立場は守らなければならない。
「おいらはGRCが出場すると聞いた時から、そういう可能性もあるなって予想はしていたよ」悪いのはザ・ゲーム委員会ではない。可能性を考えることも賭けをするコツだと、フタバは暗に示唆してみた。
 だが実は、フタバにとっても錬金術の使用は予想外だった。
 もちろん、黄金薔薇十字団だったら錬金術を使用する可能性がある。だがCランク戦。それに武器の持ち込みは禁止だ。持ち物検査もしている。
 賢者の石やファンタジーがなければ、錬金術師もただの人に過ぎない。
ーーまさか錬金術を使ってくるとはね。客の気持ちも分かるよ。
 試合を見て多少は動揺している。
「それでもフタバさんは、KOKが優勝すると思っているのですか?」動揺を見てとったようにクーが尋ねる。
ーーもし運命がおいらと沙織を会わせたのなら、沙織たちはきっと優勝する。そしてKOKに入団する。そうでないなら、沙織はそれまでの人間だったということだ。
 フタバは現実主義者であると同時に運命論者でもある。
「もちろん」
 自分の予感よ当たれとばかりに、クーに向かって大きくうなづいた。
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