第195話 VIPルームD(2) VIP Room D

文字数 1,239文字

 時間を空けられる全てのダビデ王の騎士は、円卓の間に集まり、揃ってザ・ゲームを観戦していた。全試合が終わり、すぐには納得できない顔をしていた騎士も多かったが、サオリが自爆した理由を知って、ほとんどの騎士は感動した。
「負けていない。勝負はついていた」細身の老騎士、セダン・ダ・ソルベーヌが立ち上がって手を叩く。同調するように、円卓の間には次々と拍手が沸き起こった。
 ダビデ王も立ち上がる。
「うむ。イノギンの実力は元々KOKレベル。アイゼンも前回の時点でほぼほぼ試験をクリアしていた。今回の試合でもその力を遺憾無く発揮しておった。問題なかろう。そしてエスゼロは、いつも勝利より他人の心を大切にする。そういう優しい心をワシらは忘れがちだ。1人くらいこういう騎士がいてもよい。3人のKOKへの入団を許可しよう」
 ダビデ王の騎士団たちは、ほとんど全員が賛同した。Pカードで繋がっていたヤマナカの発案で、任命式は明日おこなわれることになり、全騎士がリアルカディアに集結することもその場で決まった。円卓の面々と同様、セバスチャン・ダビデとエベリーン・マルコスも同じ意見だ。
「KOKは良い仲間を得られたな。これで隠居する時が早まりそうだ」80歳を超えてもまだ引退していないエベリーンは微笑んだ。
「いえいえ。後輩を指導するのは先達のお役目ですよ」
「ならばセバスチャン。いつでも戻ってきていいのだぞ」思わぬカウンターだ。
 セバスチャンはゆっくりと首を振った。
「いえいえ。私はすでに、世界の行方よりも、フタバと歩む人生を選んだのです。期待するほどの男ではありません」
「惜しいのぉ。実に惜しい」言いながら、そんなにガッカリしている様子もない。弟子が楽しそうであればそれでいいと思っているからだ。
「窓、開けていいか?」ヤマナカが笑顔で立ち上がった。
「お。……いいぞ」ドアに描いた魔法陣にオーラを流す。外から見られても、先に撮っておいた映像しか見えないように設定する。
 ヤマナカはセバスチャンと共に、窓を開けてベランダに出た。
 VIPルームは3階、解説席は2階だが、位置は真正面にある。合図を待っていたフタバと目を合わせる。
ーー合格。
 セバスチャンは腕いっぱいで丸を表現し、フタバに合図を送った。ヤマナカも親指を上げた。サオリのことをダビデ王の騎士団が認めてくれたという合図。そしてヤマナカの親指は、「アイゼンに、師匠からもOKが出たと伝えてくれ」という合図だ。
ーー試合の勝敗に関わらず、沙織たちを騎士として認めたか。やっぱ好きだな、KOKの面々。
 フタバは軽く親指を突き出し、最大の笑顔で答えた。
 次に、ジャケットの右ポケットに入っている小さな巾着袋を握って念を込め、極めて自然に内ポケットに入れ直す。
 自然な動作だ。誰も気にしていない。
 フタバのジャケットの内側には、スペアのクマオポケットがついている。試合前にクマオから預かっていたものだ。巾着袋は、クマオポケットスペアを通してクマオへと届けられた。
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