第82話 再会(1) Meeting Again

文字数 2,271文字

 一方、サオリだ。アイゼンとギンジロウはどこかへ行ってしまっている。
 仕方がないので、サオリは1人でラウンジの扉に向かった。トゥーンタウンらしくピンクにふちどった漫画みたいな扉。左上に点いている丸い電灯には、33と3分の1と表記されている。
「さっきの場所は、Club33だった!」アカピルが自慢げに指摘する。
「さっきより3分の1上がった!」キーピルも指差す。
ーー他のチームも、いくつか数字、上がってんのかなー?
 どうでもいいことを思いながら扉を開ける。
 階段を上がっていくと、ホテルのロビーのように広い部屋。講談社ラウンジと看板に書いてある。サオリたちの荷物はスタッフが運び込んでくれていた。中はパステルピンクで統一されている。テレビの前に置かれたいくつかのクッション椅子だけは、ひとつひとつ違う色だ。
「僕こっちー」アオピルが走る。
「わーい」キーピルも大喜び。ピョーピルは、それぞれの色のクッションに走っていった。
 自分と同じ色のクッションがないシロピル、ミドピル、ピョレットの3ピョーピルは、サオリのリュックサックに頭を突っ込み、おやつを漁っている。
 サオリは、カーペットに寝転がり、チャタローと同じように伸びをして、ゴロゴロとしながら、映像が流れているテレビを見た。2回戦がプーさんのハニーハントだ、という発表がされている。
 サオリは、1回戦のことを思い出していた。タンザとビンゴの圧倒的な力。オポポニーチェの独創性。自分より弱そうだったボルサリーノでさえも活躍をしていた。
「アタピも活躍したかったなー」サオリは体を丸めた。
「だいじょーぶだよ」ピョレットが慰める。
「次は活躍できるって」シロピルも続く。
「いーや。次も活躍できへんでー」
 ピョーピルが口々にサオリを慰めている中で、1つだけ異様なイントネーションの声がした。
ーーあ!
 サオリは、声のする場所を見た。リュックだ。リュックはごそごそと動き出し、中からピンクのクマのぬいぐるみが出て来る。
「クマオ! 出ていいの?」
 クマオは、うんしょうんしょと言いながらリュックから這い出ると、サオリの元まで転がってきた。カメラに映らないかと気になったが、チャタローは何気ないふりをして、うまくクマオを画面から見切らせてくれている。
「えーか、サオリ」クマオの小声に、サオリはうなづく。
「このままでは、サオリは活躍できへんねん。なぜならな……」クマオは、自分の胸を強く叩いた。
「ワイを一緒に連れて行かんからや!」
 サオリとピョーピルは、予想外の言葉に驚いた。クマオは人前だとほとんど動けない。明らかに試合の邪魔になるからだ。
「なにー? クマオ、一緒に行きたかったのー?」シロピルが茶化すが、クマオは真剣だ。
「そらそうや! ワイだって、あの蜂蜜色の日々をもう一度サオリと過ごしたいがために、こうして女王陛下から離れてまでリアルにきてるんや。なにも動かない、物言わぬぬいぐるみになるために来る必要なんてないやないか!」
「他人に自分の気持ちは分からない。最低でも、言葉で伝えてくれなくては分からない」ミドピルが腕を突き出す。クマオは噛みつくように言葉を吐いた。
「しゃーないやないか。ワイかて、連れてけー言お思たのに、サオリがいなくなった途端、急に動けなくなってしもうてん。せやけど、動けるようになったからには言うで。サオリ。ワイを連れてけ。ワイを連れてけば、次の試合からは大活躍間違いなしやぞ!」
「クマオは、戦いに役立つの?」
 クマオは驚いた顔をして、呆れたように話した。
「はあ? あったりまえやろ? エニグマと戦った時のこと、忘れてんか? ワイが役にたたんで誰が役にたつねん。ワイは、三色ボールペンよりも役にたつぬいぐるみや」
「なになにー」
「なんでー」
「なんの役にたつのー」ピョーピルのヤジにはとりあわない。クマオは堂々とした態度をとった。
ーー理由はわからないけど、堂々とされると信用してしまう。……まぁいっか。
「じゃ、次から一緒に行こっ」
 サオリは、クマオの手を掴んで胸に引き寄せた。
「いーなー」
 ピョーピルの羨望の眼差しを無視して、サオリとクマオは、ゴロゴロとカーペットを転がる。
「うひゃ、うひゃひゃ」クマオは思う存分、サオリと遊んだ。
 5分後、遊び尽くしたサオリは、呼吸を整え、柔軟運動を始めた。ピョーピルとクマオは、仲良く並んでテレビを見ている。繰り返される2回戦のステージ紹介ビデオは、すでに3回目だ。
「次の試合、どうすれば勝てるかねー?」サオリはつぶやいた。
「勝算はぎょうさんあるで」クマオはサオリの顔を覗いてきた。
 目を合わせると、クマオは偉そうに喋りはじめた。
「まず、次の試合は、くまのプーさんや。ワイもくまのクマダクマオ。プーさんの考えてることはよーわかる。それにな……」クマオは何かを思いついたようだ。立ち上がると、サオリの顔に鼻を突きつけてきた。
「せやな、サオリ。実際1度、プーさんのハニーハント、見に行かへんか?」
「外に出ていいの?」サオリにとって意外な言葉だった。
「他の2人もいないんや。出て悪いわけないやろ。ま、サオリが囚人いうなら、話は別やけどな」
 ーー確かに。アタピ、フリーマン。
 そうと決まれば善は急げだ。ラウンジの外は夜のディズニーランド。
ーーしかも貸切。
 テンションが上がってくる。サオリは立ち上がり、ウエストポーチを肩にかけ、無造作にクマオをポーチに詰め込んだ。
「じゃあ、シュッパツシンコー!!
「おー!」
 クマオとピョーピルは、サオリ隊長の掛け声に一斉に応えた。
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