第161話 4回戦(4) Final Round

文字数 1,307文字

 サオリたちを乗せたバトーは、第4エリアのデッドマンズ・コープを進んでいく。洞窟に広がる白い砂浜には、戦に敗れた海賊たちの白骨死体が転がっている。
「決戦の地は第6エリア。海上戦ステージだ」サオリ以外はアイゼンから詳細な指示を受けている。それぞれが大きくうなづく。
「みなさん。間もなくです。先ほどの戦略通りにお願いします」
 サオリはアイゼンの服の裾を引っ張った。
「アタピは?」自分を指差す。
ーー沙織?
 アイゼンは不思議な顔をして答えた。
「エスゼロは陽動を頼む。1番は尻尾を奪られないこと。2番はオポポニーチェの注意をできるだけ惹きつけること。よろしくね!」
「りょ」
 他の人には細かい指示があったが、サオリには詳細な戦略をくれない。
ーーお豆さんと思われてんのかな。
 サオリは少し不貞腐れると同時に、絶対に成果を見せてやると気合が入った。
 だが実際は、サオリはアイゼンから舐められていたわけではない。むしろ自由にやらせた方がオポポニーチェに対しての脅威になると考えられていた。そしてアイゼンは、自分の考えをサオリも当然言わずとも理解していると思っていた。だから細かい説明をされなかったのだ。
「沙織ー。なんか策はあんのか?」クマオがつつく。
 本当は何もない。けれども無いと言うのは悔しい。
「ある」
 間もなく第5エリア、宝の山ステージに到着する。洞窟の奥に見える金銀財宝の山。上には骸骨 になった海賊が座り込み、無くなった目でこちらをじっと見ている。
ーーとりあえず行ってみる。
 サオリは最初から考えていたとでもいうように、勢いよくバトーから宝の山へと跳び移った。
ーーお宝ちゃん。
 動いてみれば考えは閃く。黄金の壺、宝箱、コイン、剣。これらを片っ端から投げつければ、オポポニーチェの集中を阻害させることができるはずだ。
ーー我ながらリョーアン。
 心の中で手を合わせる。
ーーまずはコインをポシェット満タンに詰め込も。
 サオリは宝の山に手をつけた。
ーーあ。
 触ってみて驚いた。コインも含め、宝の山は全てが貼り付けられていて取れない。
ーー考えてみればそうか。
 宝の山はバトーから手を伸ばせば届く位置にある。取れないようにしておかなければ誰かが奪ってしまい、やがて山がなくなってしまう。自明の理だ。策は破れた。しかしバトーは止まってくれない。サオリは脳筋になり、コインを無理矢理ひっぺがしてみた。取れる。火事場のバカ力とはこのことだ。土壇場に無理矢理を突き通す。
ーーアタピ、かっこよ。
 宝の山の上に座っている海賊の白骨死体から、海賊帽トリコーンと湾曲剣カットラスも奪い取る。
ーーへへん。
 サオリは大量のお宝と海賊コスチュームを手に入れ、意気揚々と流れているバトーに跳び乗り、さらに勢いをつけて何艘か前を進むアイゼンたちの乗るバトーへと舞い戻った。
ーー可愛すぎるでしょ。
 アイゼンはサオリの可愛い理由がわかった。心の中ではドヤっている。なのに表情は変わらない。整ってたままスンとすましている。尻尾こそ振っていないが、これは犬猫と同じだ。感情を押し付けてこない。ただ可愛い。
ーーこんなに緊迫した場面なのに。
 アイゼンは知らず笑みがこぼれた。
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