第32話 人の価値(2) Human Value

文字数 2,768文字

 フタバは立ち上がってウロウロしだした。
「こんなにみんなに見つめられちゃあ、オイラ、喋るの恥ずかしくなっちゃうよ」
 忙しなく揺れている。多動症だと詩集に書いてあったことは本当のようだ。それでもようやくフタバは、意を決して話し始めた。
「みんなはDeath13について知ってるかい?」
「ワールドゲートを開く鍵ですよね? ソングNo.0事件で飛散してしまいましたけど」
 13の聖人の頭蓋骨によって作られたDeath13は、SSSランクのドープ・ファンタジーだ。全てが揃うことによって、リアルとアルカディアを繋ぐワールドゲートを出現させる。
「そう!」
 フタバはギンジロウを指差した。
「そのDeath13は、13頭集めて、KOKで保管しておかなければ大変なことになる。ワールドゲートを開けられて、アルカディアンの軍隊を作られたら、世界のパワーバランスは滅茶苦茶になってしまう。以前のことで、みんなもわかったろ?」
ーーあの魔人、すごかったなー。
 3人はうなづいた。
「だからKOKは、現在Death13を探している。そしてまず、最初の髑髏が見つかった。No.8トマスだ」
「どこで見つかったんですか?」ギンジロウが食い気味に尋ねる。
「私たちが取りに行く、という任務ですか?」アイゼンは久しぶりのクエストの予感に、早くもやる気を見せている。
「まあまあ」フタバは、落ち着いて、というジェスチャーをした後で続けた。
「見つかったトマスはフリーメイソンリーに届けられ、あるゲームの賭け事として使われることになったんだよ」
ーーじゃあ、フリーメイソンリーに盗みに入るてことかなぁ?
 サオリはドキドキしながら続きを待った。
「じゃあ、そのゲームに参加してトマスを手に入れようってことですか?」アイゼンの目が輝いている。
「そうそう」フタバがうなづいた。
ーー全然ちがかた。
 サオリは1人で赤面した。フタバは気にせず続ける。
「でも、そのゲームには参加資格があってね」
「資格?」
「そう。KOKの団員は参加資格がないんだ」
「なぜですか?」
「みんなは、人間価値ランキングを知っているかい?」
ーー何それ?
 サオリは首を振った。
「信用スコアや企業価値ランキング。日本だと上級国民なんかも有名だね。この世界には、全てのものが順位や価値がつけられているということは知ってると思う」
ーーえ? 学校ではみんな同じだからて言って、競走や順位をつけることを避けてるて新聞に書いてあったよ?
 他の2人を見たが、アイゼンもギンジロウも当然という顔をしてうなづいている。サオリはどうしても尋ねてみたくなった。
「学校じゃ、みんな平等て教わった」
 フタバは微笑ましい顔をした。
「うん。それが理想だね。でも現実は違う。全員が同じで全員が平等なんて、そんなことができるのぁ、そりゃあ人間じゃないよ」
「アタピ、ちゃんと平等にしてると思う」
 サオリは自信を持って言った。フタバは驚いた顔をした。
「じゃあサオリは、全ての人間が同じ顔に見えてるのかい?」
「なんでそーいうことになんの?」
「だって、差別と区別っておんなじ言葉だぜ?」
 サオリは全く意味がわからなかった。アイゼンが助け舟を出す。
「じゃあ沙織は、銀次郎とミサ王子、どっちが好き?」
ーーそりゃ一緒に大冒険したし、色々救えてもらったし。
 サオリはギンジロウを指差した。
ーーお、お、お、俺ー!!!
 ギンジロウは喜びを隠すことが難しく、奇妙奇天烈な表情で、当然という顔をした。
「じゃあ、私と銀次郎だったらどっちが好き?」
「アイちゃん」
 サオリは迷うことなく食い気味で答えた。ギンジロウの三秒天下はここに幕を閉じた。
「でしょ? つまり、サオリは差別してるってわけ」
 サオリは何か納得できなかった。
「んー。じゃあ、個人は差別してるとしても……、社会全体は差別や区別をしちゃいけないと思う」
「でも、差別する動物である人間が作った社会で差別をしないって、一体どういう社会のことを言ってるんだい?」
ーーそりゃ……。
 言おうとして気づいた。自分が何を差別と言っているのかがわからないということに。無言のサオリにたいして、さらにフタバが後押しする。
「学校が差別はダメって言ってるのは、単純にイジメが良くないから言ってるんだよ。子供を預かるシステムだからね」
「そういうこと」
「じゃあ、競走やランクづけはしてもいいの?」
「もちろん。もし、現実が競争しなくてもいい社会だったら、競走はいけないって教えても悪くないよ。でも、現実は競争社会だから。力のない子が力のないまま社会に出れば、力のある人にいいように利用されて、それで終わる人生になる」
ーーだったら、そういう教育すればいいのに。現実にそぐわない教育なんて、合理的じゃない。
「なんでそうしないの?」
「戦略を持ってないからだよ」
「どういうこと?」サオリは、ますます意味がわからなかった。
「保護者は、世の中は力の強いものが支配しているという原則を知らず、ただいじめる相手が悪いという。いじめっこは、自分のいる学校社会がいかに小さいかを知らず、色々な価値観を認めることができない。先生は、本来の目的も忘れ、ルールだからと競争させないようにする。教育委員会は、目標を持っていないから、保護者の圧力の言いなりのまま、なんの策もなく競争をやめさせようという作戦を日本中に広めて満足する。誰も目的を持って教育をおこなっていない。感情となんとなくで教育が行われている。大声を出した誰かの決定で、世の中が動いていくんだ」
「教育の目的って何?」
「そりゃ、一人一人が幸せになるための手助けをするってぇことだよ。日本が教育社会なら競争できる力をつけること。それから、個々人の理想を持つことだ」
ーーあ! パパから教わった仙術でもそう言ってた!!
 サオリは、暗記しているパパの残した仙術本の内容を思い返した。
「知ってたのにねー」アカピルが頭を撫でる。
「理解できてなかったー」アオピルが弱った目をする。
「ざーんねん」キーピルも真似をする。
「先人の言葉は、人生の答え合わせである」ミドピルは偉そうだ。
「行動すりゃいつかわかる、てことー」ピョレットが補足する。シロピルはただうなづくだけだ。
ーーえ、じゃあ幸せてなんだろ……
 サオリは、まだまだ聞いてみたいことがたくさんあった。
「そんなことより、人間価値ランキングについて教えてください」
 ギンジロウがフタバの話を中断させる。ギンジロウにとっては当たり前の話らしい。
「ああ。そうだったね」
 フタバがのんびりと答える。
ーーもっと話聞きたかた……
 とはいえ、他の2人を待たせてただお話をしては迷惑をかけてしまう。アイゼンも話を終えたらまた武道館に戻らなくてはならないのだ。
 サオリは我慢して、フタバの話の続きを聞くことにした。
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