第59話 試合予想(2) Prediction

文字数 1,383文字

 ワイアヌエヌエ・カジノ内は、ザ・ゲーム委員長のクーが仕切っている。ヒナのいる月の間の反対側には解説ブースがあり、クーと2人のゲストが座っていた。クリケットの説明が終わったので、クーはマイクを使い、大声で客に話しかける。
「さぁ、みなさん! よくお考えください。今回のチェイス・ザ・マウス、改めチェイス・ザ・ミッキー。なんといっても追いかけっこです。普通は、こんなに小さくて見晴らしのいいアトラクションを試合場にしようという酔狂な輩はおりません! けれども、真言立川流はあえて、このアトラクションを試合場に選んできました! 一体どのような作戦を考えているのでしょうか? マックス・ビー。お教え願いませんか?」
 クーは、隣にいる男に話しかけた。
 マックス・ビーと呼ばれたその男は、バツンバツンのステロイドで作られたような肉体を派手なストライプのスーツで包みこみ、レイバンのサングラスをかけている。初老だろうか。ヒゲも含めて、全てが白髪の白人だ。
 彼はかつて、マウイと呼ばれる地位についていた。常時4人いる、ワイアヌエヌエ専属最強闘士。ヒナやクーと同じく、ザ・ゲームで受け継がれている者の名前だ。最強の戦士を意味する。
 時にザ・ゲーム委員会は、自分たちもザ・ゲームに参加しなければならない時がある。こういう緊急の時に出陣するのが、マウイと呼ばれる4人のワイアヌエヌエ専属闘士である。マックス・ビーはその中でも、全戦通じて負けたことがなく、現役を退いた今も伝説の武神として知られている。もちろん、キャッチ・ザ・マウスは何回も経験している。
 マックス・ビーは丸太のような腕を机の上に乗せ、太い声でゆっくりと口を開いた。
「そうだな。この見晴らしのいいアトラクションを選んだ理由は、自分たちに絶対の自信を持っているからだろう。見えない場所から急に攻撃された場合は、どのような達人でも対処しきれない。だが、そうでない限りは自分たちの体術は誰にも引けを取らない。そういう絶対の自信を持っているようだ」
「その自信について、どう思いますか?」
「見た感じ、真言立川流の3人は、みなバランス感覚に優れているようだ。足運びの軽快さからもそれが分かる。ティーカップの上を跳び回って相手を避け、1時間じっくりかけて相手を研究し、隙があったら攻撃していこう。そんな考えなのかもしれない」
「跳び回るといったらエスゼロもスゴイよ」頭の後ろで両腕を組みながら、隣にいるゲスト解説者が答える。スーツに派手柄ワイシャツ。パーマと丸めがね。そして特徴的な平たい笑顔。フタバエンドだ。
 マックス・ビーは、「なにを言っているんだ?」という顔で、フタバの5回りも大きな体を傾ける。だが、フタバは全く意に介さない。
「あんなちびっこが? ありえない。私はフタバエンドを尊敬していないわけではないが、元マウイのプライドをかけて断言させてもらおう。KOKが優勝することだけは100パーセントない!」
 フタバは返事もせず、ただニヤニヤと笑っている。
「それでは、フタバエンドはどのようにお考えですか?」
「んー」フタバは、姿勢を起こして答えた。
「種は蒔いた。けれども、どんな花が咲くのかはわからない。そんなところが面白いんじゃねぇのかい?」
「なるほど」クーはゴツい体に似合わず几帳面だ。机に置かれた時計を見ながら、進行を続けていく。
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