第117話 VIPルームB(1) VIP Room B

文字数 1,400文字

 堕落の極致に至るVIPルームAとは違う。VIPルームBは暴力の匂いが感じられるものの、至って洗練された雰囲気に包まれていた。
 白ワインを飲んでいるアントワネットが、左手の指を激しく動かす。たったそれだけのことでもやけに目立つ。だが、淑女の悪癖に対して誰も反応はしない。この部屋には紳士しかいない。女性を嗜めるような鬱陶しい男性は1人もいない。
「今回も勝利を手にしたか」前のめりで試合を見ていたアルフレッド・デュポンは、ソファーに深く座り直した。手にはメモを持っている。タンザとビンゴの性能について、試合中に感じたことが書かれている。
「ええ。辛うじてですが、ね」リリウス・ヌドリーナ相談役のラブリオラも緊張を解く。
「だが、疑問もある」アルフレッドは根っからの科学者だ。疑問ができるとどうしても知りたい。
「!回戦と違い、SVの命中率が低下した。何故だ?」
 資料によると、「発動までに起こりがない。避けることが難しい」とある。けれども今回は、アイゼン、カンレン、カンショウ、3人に避けられていた。
「そうですね」アントワネットはメガネを上げた。
「性能には問題ございません。単に、相手が強かったのです」
「ええ。1回戦でSVの性能を見られすぎたのでしょう。今回のザ・ゲーム、参加選手がCランクにしては強すぎます。3回戦からは、更に厳しくなるかもしれませんな」ラブリオラは、商売の品質実験として試合を見ている。真剣な表情を崩さない。むしろこの機会に、強敵と対戦することができて嬉しいとすら思っている。
 アルフレッドは2人の話を聞き、攻撃が当たらない理由を理解した。
 デュポン家の人間は忙しい。時間が大事なことを知っている。疑問が解ければ、それ以上グダグダと話をしない。
 持っているメモにチェックを入れ、すぐに次の疑問へと移った。
「では、次の質問だ。タンザが振り返りもせずに、背後のエスゼロを捕獲できた原因は何だ? H2の性能か? 遺伝子的な技術か?」
「H2や遺伝子のせいではございません。単に、タンザ個人の能力が優れていたからでしょう」マルコが、自分の義兄弟について説明をする。
「なるほど。それは商売には繋げられんな。もし技術なら、一般大衆でも使用可能になるかどうかの実験もせねばと思っていたが」アルフレッドはうなづいてメモをチェックし、次の質問をする。
「試合中盤、オポポニーチェが来た時だけ、全員の動作が雑になったな。あれは何故だ?」
「おそらく、DFを使用されたと推測します」この中では唯一の錬金術師であるアントワネットは、ファンタジーの研究者でもある。神妙に答えた。
「なに? あれはFか?」
「はい。選手たちの声が聞こえないので予想の範疇に過ぎません。ですがおそらく、幻覚系のFでしょう」アントワネットは「おそらく」という言葉を使用したが、自分の予想に確信を持っていた。
 幻覚系のファンタジーは、使用者の壮大な空想力が必要とされる。使用者は少ない。だが、以前このようなファンタジーがあるということを調べたことがあったのだ。
「GRCは錬金術師のギルドだ。その可能性は大いにありうるな」ラブリオラもうなづく。
「なるほど」アルフレッドは一つうなづいて続けた。
「だが、GRCのF使用は、我々の商売に支障をきたす。我らの圧倒的勝利で終了せねば、機械化技術や遺伝子操作技術は売れない」アルフレッドはおもむろに立ち上がった。
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