第116話 VIPルームA VIP Room A

文字数 1,147文字

「また負けた、か」真言立川流の宗主、レンネンが笑う。
「だーめだな、こりゃ」隣にいる老僧の陰陽師、モクレンも呆れ顔だ。
 VIPルームAでは、女を抱きながら、レンネンとモクレンが気軽に会話をしていた。まるで自分たちの宗派が、誇りと髑髏本尊をかけて戦っていることを知らないかのようだ。
 コンコン。
 ノックの後、ラウンジガールが部屋に入ってくる。
「おーう。待っとったぞ」モクレンは、友達のように手を上げた。
 ラウンジガールは恭しくカードを差し出した。
「見蓮さま。2回戦の勝利予想。リリウス・ヌドリーナへの一点賭け。見事当たりました。1.8倍ですので、現在のチップは1万8千ドルです」
「いーねー」レンネンが羨ましがる。
「お前は観蓮たちに賭けてたんだっけ? もう勝てんじゃろ」賭けに勝つためなら自分たちの宗派をも容赦無く切り捨てる。老僧ゆえの冷静な目線だ。
「5.6倍という倍率の高さに賭けてたんだけどな。ほら、夢があるだろ?」まるで子供のような目つきでレンネンは言った。
「じゃあ、次も観蓮たちに賭けるか?」モクレンは意地悪な目をする。
「いやいや」
 否定した後、レンネンは、立っているラウンドガールに声をかけた。
「わしゃ、次の試合、リリウス・ヌドリーナに1万ドル賭けといてくれ」
「かしこまりました」ラウンジガールは笑顔でうなづき、手元の機械に金額を入力した。
「ご確認をお願いします」ラウンジカールが機械をレンネンに見せようとする。
「あー、いい、いい。わしゃ、お姉さんを信じてるよ。別嬪さんにゃあ悪い子はいねぇ」
 金髪のラウンジガールは、東洋のハゲたおじさんに褒められたのに嬉しそうだ。
「ありがとうございます」
 そのまま隣を見た。
「見蓮さまはいかがいたしますか?」
「ワシか?」呼ばれるのを待っていたとは思えないほどのすっとぼけ様だ。 
「ふっふっふ。甘いな、蓮念よ」モクレンは、レンネンを指差した。
「ワシは3回戦、GRCに賭けるぞ。同じく1万ドルじゃ」
「なんと!」レンネンは驚いた。
「オポポニーチェはルールを変えてきたんじゃ。よほど自信があるに違いない」モクレンは、心から賭けを楽しんでいる。
「けれども、ただ、遊び半分でやっているのかもしれませんよ?」見ていたセンジュマルも楽しくなり、思わず会話に参加してしまった。
 が、さも当然という顔でモクレンは話を続ける。
「かもしれん。そうでないかもしれん。だから賭け事は面白いのじゃ。人生と同じようにな」モクレンは目を細めて笑った。
「千手丸。お前はやらんのか?」レンネンは不思議そうに尋ねてくる。
ーー宗主自ら賭け事を勧めるのか。他の世界では、こんなに贅沢な気持ちにさせてもらえたことはなかったな。
 センジュマルは首を振りながらも、この教団に入って本当によかったと思った。
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