第159話 4回戦(2) Final Round

文字数 1,549文字

 真言立川流の鈴を貰い、リリウス・ヌドリーナと手を組み、黄金薔薇十字団を倒す。この辺りの策略は全てアイゼンの時間だ。黄金薔薇十字団がスタートするまでサオリに活躍の場はない。サオリはブルーバイユ・レストランの机に乗ってみたり、ゆりかごに座っているおじいさんの上に座ってみたりと、非日常を楽しみながらアイゼンの様子を眺めていた。
 アイゼンと話をしている真言立川流の僧侶たちは良い顔をして、喜んで鈴を渡している。カリスマとはああいうことをいうのだろうか。
「羨ましいの?」シロピルが顔を覗く。サオリは勢いよく首を振った。
ーーただ、凄いなと思った。
 暗闇で坊主頭に照らされ、スポットライトを浴びているかのように美しい立ち姿のアイゼン。このゲームの主役に抜擢されたと思っていたサオリは、その近くで1人暗闇に揺れている。
ーーアタピ、どういう自分像を描いてんだろ?
 自分自身に美意識があることは明確に分かる。だが、どういう振る舞いをしたいのかという具体的な美しさは、自分のことだというのに不明瞭だ。
 アイゼンはきっと、剣道ができなくても、勉強ができなくても、頭が良くなくても、アイゼンという人間であり続けるのだろう。完成されたアイゼンの美には隙がない。
ーー完璧なキャラ……か。かっこよ。でも、アタピは完璧目指してない。まだキャラ無いけど……。
 サオリは、水辺で水をパチャパチャと飛ばしながら考えた。
 5分経ち、真言立川流が退場する。入れ替わるようにリリウス・ヌドリーナがやってくる。彼らも退場していった真言立川流と同じだ。和気藹々、アイゼンと話をしている。
ーーまだ敵同士なのに。
 人付き合いが苦手なサオリからしたら信じられない。ボルサリーノがビンゴに片手で持ち上げられている。みんなが笑っている。
ーーほーんと、なんなんだろ。
 自分の心の声に気づいたのか、アイゼンがサオリを見た。手招きをしている。今度こそ自分の活躍する時間だ。靴を脱いで足を川の水に浸していたサオリは、畳んでおいた短い靴下を履き、急いでみんなと合流した。これからバトーに乗り、いよいよ闘いの場へと移動を開始する。
 サオリの横を通り過ぎ、まずはタンザが先に乗りこんだ。重い。バトーが大きく揺れる。だが、揺れには動揺していないようだ。どっかと腰を下ろしている。
「これからしばらくの時間、おチビちゃんとも仲間だな。ガッハッハ」ビンゴはサオリの頭を撫でて後に乗り込む。2人ですでに20人乗りのバトーの半分が埋まっている。2人の影から申し訳程度にボルサリーノ。
「よ、よろしくでやんす」4回戦が開始する前に話したことは、タンザとビンゴには内緒にしておいてもらいたそうだ。
ーーオケー。
 サオリは挨拶がわりにボルサリーノへウインクを返した。アイゼンがみんなと仲良い外交ができるように、サオリもそれなりに良好な外交を築いているつもりだ。
「沙織。乗ろう」アイゼンが呼ぶ。
ーー呪う? アタピたちも同じ船?
 タンザとビンゴは大きい。とはいえ20人乗りのバトーだ。まだ後ろは空いている。
「乗り込もー!」シロピルが声をあげる。ピョーピルたちはいつの間にか頭にバンダナを巻いている。誰も喋っていなかったのはこれを用意していたからかもしれない。
ーーよっし。アタピもやる気出す!
 思った瞬間、バトーの左舷に書かれた文字が目に入ってきた。女性の名前だ。
ーーアントワネット、だって。
「1793年10月。コンコルド広場にて処刑さる」ミドピルのマリー・アントワネット蘊蓄が炸裂した。
「首、チョン、パッ!」アカピルがギロチンポーズで脅す。
ーーアタピ、絶対そうならないもん。
 サオリは首を振った後、アイゼンとギンジロウに続いて軽快にバトーに飛び乗った。バトーは戦士たちを闘いの場へと運んでいく。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み