第57話 試合場(3) Playing Field

文字数 1,701文字

ーーもう30分か。
 トゥモローランドで時間を取ってしまった。他のアトラクションを見る時間がない。
 アイゼンは一応、バズ・ライトイヤーのアストロブラスターを第一候補とした。色々な機械が動くために、気配を読めない相手にたいして神経を使わせることができそうだからだ。
 けれども実は、事前に候補として考えているアトラクションがあった。
 試合会場が東京ディズニーランドだとは分からなかったのに、なぜ事前に考えられたのか。なぜならアイゼンは、事前に得た重要そうな単語から、色々な情報を調べに調べてシュミレーションしていたからである。
 フリーメーソン、ファンタジー、ホープ、ドープ、キャッチ・ザ・マウス、真言立川流、ヌドランゲタ、黄金薔薇十字団、錬金術……。
 本やネットには、真贋含めた様々な情報が落ちている。その中には、ディズニーランドの創始者であるウォルト・ディズニーも実はフリーメーソンだったのではないか、という都市伝説もあった。
 家に迎えに来るという情報から、試合場が東京近郊ではないかという予想も立てていた。キャッチ・ザ・マウスという競技名や、ザ・ゲームの盛り上がりのことも考えた。結果、選択肢の中に、サンリオキティランドや東京ドームと共に、東京ディズニーランドが浮かんできていた。
 もちろん、アイゼンはこの考えに確信を持っていたわけではない。ただ、可能性として考えていた100以上のシュミレーションのうちの1つが当たっていただけだ。
 そして、もし東京ディズニーランドが試合場であるならば、ピーターパン空の旅か、カリブの海賊が良いと考えていた。あちこちに剣のオブジェが落ちているので、自分たちに有利だからだ。
 けれどもサオリは、「次はカントリーベア・シアターと、魅惑のチキルーム行きたい」と言った。
「音の大きなとこだと、みんな目でしか探すことが出来ないから、足音気にせず隠れやすいと思う」サオリは珍しく饒舌だ。ぶっきらぼうに理由をつけくわえる。
ーーいやいやいや。単に音楽が好きだから行きたいだけでしょ?
「ミッキーのフィルハーマジックもいい」と言ったところで、その疑念は確信に変わった。それらのアトラクションは、全て隠れる場所がまるでないからだ。
 なにより、サオリを知っているアイゼンからすると、サオリ自身が音楽にのって、試合をするどころではなくなってしまう、という危険性をはらんでいる。そんなことはさすがにないとは思うが、あり得るのがサオリのサオリたる所以だ。
ーーま、そんなところが可愛いところでもあるんだけど。
 アイゼンはどうしても、事前に考えておいたアトラクションを見ておきたかった。そこで、それぞれが別れ、23時50分までにClub33に戻るようにした。

 アイゼンは別れた後、急いで2つのアトラクションを見に行った。両方とも戦術が使用できるという確認ができた。
 候補は、バズ・ライトイヤーのアストロブラスターと、ピーターパン空の旅と、カリブの海賊の3つに絞られた。ピーターパンは単純で明る過ぎる。サオリにとって隠れにくい。アイゼンは、自分の中で、カリブの海賊を主戦場に定めた。
ーーあとは2人を説得するだけだ。
 集合してから3人で話す。3分しかない。
 アイゼンが概要を話すと、ギンジロウは、「バズ・ライトイヤーは、うるさすぎて集中しにくい」と言ってくれた。なんでも了解しようと思っていたようだ。
 サオリも、海賊怖いと思ったが、アイゼンを信用しているし、特に主張もない。リトルグリーンまんを片方の頬に入れてうなづいた。頭の中は、後、いくらお小遣いを使っていいかという計算でいっぱいだった。
 アイゼンは、急いでキャストに申請する。時間いっぱい。間に合った。
ーーこれで私の戦略は用意ができた。後は、他の試合場にたいする戦術を考えるだけね。
 アイゼンは呼吸を整え、すっくと姿勢を正した。30メートル先に、ミッキーマウスの耳をつけ、ポップコーンをほおばっているサオリがいる。そんなサオリを、ギンジロウがとろけた目つきで見つめている。
ーー大丈夫、だよね……。
 申請の終わったアイゼンは、2人に向かって歩いていった。
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