第108話 インタビュー Interview

文字数 2,618文字

 オポポニーチェの映像が終わると同時に、サオリたちの控室、Club33と3分のIの扉がノックされた。
「どーぞー」サオリはためらいもせずにオーケーを出す。
ーーあーあ。ドラキュラは、相手からの了解があるまでは部屋に入れないのに。
 アイゼンは水を飲みながら、そんな迂闊なサオリのことを可愛いと思った。
ーー普段口数少ないのに、こんな時だけは返事がはやい。
 ギンジロウはソファから起き上がり、ゆっくりと身構えた。
 来訪者は、映像に映っていた男とは別のインタビュアーだった。2人のカメラマンをつき従えている。狼男。半魚人。フランケンシュタイン。3人ともがスーツ姿に覆面をかぶっている。
 インタビュアーは、サオリたちにお辞儀をした。意外と礼儀正しい。
「それでは、これから中継を始めさせていただきます。ご準備お願いいたします」
ーー準備? なるほど。そういうことか。
 アイゼンが納得した時、再びテレビから声が聞こえた。
「それでは、中継繋がっておりまーす。まずは現在1位のリリウス・ヌドリーナさーん」
 テレビには、タンザが映し出された。腕を組み、三人掛けのソファーに1人で座っている。隣にはインタビュアーが立っている。あちらは人魚の仮装だ。スーツ姿にも関わらず、動きづらそうな足ヒレをつけている。
「はーい。こちらは、リリウス・ヌドリーナの控室です。それでは、リーダーのタンザさん。黄金薔薇十字団からのこの挑戦、受けますか?」
 タンザは、自分の強さを絶対的に信じていた。2回戦では真言立川流を完膚なきまでに叩き潰した。だが、黄金薔薇十字団に対して動揺を見せてしまっている。この借りは返してやらなければ気がすまない。
ーー挑戦を受けずに、オポポニーチェから逃げたと言われるのは心外だ。
 自分の有利不利は関係ない。ただ、全員踏み潰す。それだけだ。どのような挑戦も避けるつもりはない。
 タンザは、自信ありげにゆっくりと葉巻に火をつけ、大きく煙を吐いた。一息で、葉巻の半分がすでに燻されている。すごい肺活量だ。
 タンザは、カメラを見てニヤリと笑った。
「受けてやろう」インタビュアーは、驚いた口調で話した。
「みなさん! 聞きましたか? さすが男の中の男の集団、リリウス・ヌドリーナです! この提案を、逡巡せずに受けました!」

「ほほう!」マックス・ビーは上気した。
「簡単に受けましたね」クーもノリを合わせる。
「ああ。他のチームに20点を加点されれば、これだけ開いている点差が縮まってしまう危険がある。そして、彼らはまだ、オポポニーチェの技の謎が解けていない。だが、迷わず受けた」マックス・ビーは、リリウス・ヌドリーナの不利になる可能性が高いこの提案を、受けないかもしれないと思っていた。他の2チームとは違い、このまま普通に戦えば優勝できるのだ。わざわざ罠にハマりにいく必要はない。自分だったら絶対に断っている。 
 だが、リリウス・ヌドリーナにとっては、有利不利よりも、名誉不名誉の価値の方が上回っていたようだ。
「うーん、誇り高いねぇ」フタバは上機嫌だ。元々は、戦略家という、冷静の代表格のような経歴を持っている。けれども、それはただ、求められて才覚があったが故にこなしていた職業に過ぎない。本能は、個々の持つ純粋な美意識を見た時に、一番心が揺さぶられる。
「あと2チーム。いやー。このルール。決まったら面白くなりそうですね! 続いては、現在3位のダビデ王の騎士団につなげまーす」
 クリケットの合図で、スクリーンは、サオリたちのいる控室へと映り変わった。

 狼男の覆面をかぶったインタビュアーは、カメラのランプが赤く光ったことを確認した後、アイゼンにマイクを向けた。
「それでは、こちら、ダビデ王の騎士団控室です。リーダーのラーガ・ラージャ。どうでしょう? この挑戦、受けますでしょうか?」
ーーヌドランゲタとは21点差。策はまだ、いくつも残されている。だが、自力優勝はすでに厳しい。立川流の協力が必要不可欠だ。その点、今回オポポニーチェが提案したこのルールは、1周で20点、1位になって15点、最大35点を獲得できる。これは、自力優勝の最後のチャンスだ。
 自信があるのはアイゼンも同様だ。
ーー私一人だけでもオポポニーチェから鈴を奪われなければ、少なくとも23点が獲得できる。確かに、ヌドランゲタが残って私たちが残らないとなると、絶対に追いつけない点差になる。だが、GRCもそれが分かっているはずだ。まずは、現在1位のヌドランゲタを狙ってくるだろう。その間に、全チームで一番素早い私たちが逃げ切る。可能性は、普通に闘うよりも高いはずだ。まずは、GRCから逃げる。逃げながら、ヌドランゲタを1周の間に倒す。それから、ゆっくりGRCと戦う。わかりやすいじゃないの。
 アイゼンは優等生らしい口ぶりで答えた。
「受けましょう」

 客が沸いた。

「こちらも受けるそうです! それでは最後、真言立川流さーん」
「はい、こちら真言立川流です。観蓮さん、どうでしょう? 勝つにはこれしかないと思いますが」宇宙人の覆面をかぶったインタビュアーがマイクを向ける。個人的な感想を言うインタビュアーは2流だが、誰も気にしていない。カンレンの答えが気になっている。
 あぐらをかいているカンレンは、胸の前で合掌した。
「全ては運命の中にある。受けさせてください」
 当然の選択だ。真言立川流には、これ以外に優勝の可能性はない。インタビュアーは嬉しそうに続けた。
「観蓮さん。これで35点を獲得できれば、一気に優勝出来る可能性も出てきましたねー」
「はい。全ては仏の御縁。拙僧たちはただ、大日如来を信じ、懸命に精進するだけでございます」
ーーお堅いなー。
「現場では以上です! それでは中継をお返しいたします!!

 全チームの意思を聞いた後、画面には、再びオポポニーチェの姿が映った。
 すでに、ホーンテッドマンションの前にいるようだ。
「オポポポポー。みなさん。勇敢なる選択、ありがとうございます。それでは、後ほどお会いしましょう。お楽しみに」
 オボボニーチェは恭しくお辞儀をした後、再びマントをひるがえし、左右についてきたフォーとシザーと共に、ホーンテッドマンションに入っていこうとした。
「入っちゃダメですよ」当然のようにスタッフに止められる。
 注意されたオポポニーチェは、ガチャ目をさらに動かして、「オポポー」と一声笑ってみせた。
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