第137話 3回戦(18) Third Round
文字数 1,249文字
サオリを乗せたドゥームバギーは、墓場を抜けて暗い通路へと進んでいく。
エリアは後2つ。
右側には3人の亡霊が、サオリに向かって親指を突き出している。
「いやー、間に合った。この辺には、ヒッチハイクが好きな亡霊が出る事を言い忘れておった。もっとも、亡霊は勝手に乗り込んでしまうがな」久しぶりに聞くアナウンス。
サオリは冷静さを取り戻した。
ーーお坊さんもマフィアももういない。アイちゃんもギンしゃんももういない。
「ということは?」ピョーピルもクマオも、全員でサオリを見上げた。
ーー残りはアタピひとり?
自分が残れば20点。サオリはドゥームバギーの上で猫足立の姿勢をとった。左右を見渡す。オポポニーチェは見当たらない。亡霊に食べられて消えたままだ。
ーーホ。
ドゥームバギーは第7のエリア、ヒッチハイクゾーンへと突入する。
通路が狭くなる。
片側の壁には大きな鏡が並んでいる。
ドゥームバギーが半分だけ回転する。
鏡を見ながら進むようだ。
サオリは、動いて乱れた髪をサッと整えた。
このエリアでは、現世に連れていって欲しい亡霊が、自分たちのドゥームバギーに乗ってくる。
鏡を見ると、サオリの隣にも半透明のゴーストが座っている。
ーーここを越えたら1周終わる。そしたらアタピの勝ち。20点も手に入る。だから絶対に面白おじさん、改め、恐怖のオポポはやってくる。
サオリは緊張した。自分の双肩にかけられている勝利の重み。
だが、緊張に潰されるようなサオリではない。
期待に応える。
それが加藤沙織だ。
ーーあと2分。
サオリは極限まで集中した。
ーー幻想は見ない。気配だけを見る。
音楽がだんだん遠ざかる。
何の気配もない。
ーー観の目強く、見の目弱く。
鏡をぼんやりと見る。
オポポニーチェが自分の隣に座っている。
普通なら驚くところだ。
だが気配がない。
本物ではない。
サオリは集中をきらさなかった。
ーーこれは幻覚の一種。恐怖オポポには騙されない。今まで培ってきた仙術を信じる。
「ジ・ェーンド」突如、左耳に、幽霊のようなオポポニーチェの囁き声がした。
ーーあ。気配。やだっ! アタピの耳に近づきそうなくらい近いとこに、ひげ剃り跡が少しだけ残る、薄い口紅を塗った大人の口!
サオリは飛び退こうとした。
が、首に尖った刃物を当てられている気配がする。
ーーいたっ。
言うほど痛くはない。
だが気持ち悪い。
細い針が、ゆっくりと首の中に沈み込んでいく感覚。
どこまで沈み込んでいくのかと思うと恐ろしくてたまらない。
「動かないでください仔猫ちゃん。動くと私の爪が貴方のノドへと刺さっていきますよ。ゆっくりと。深ーく。ね」生温かい声が聞こえる。
鏡越しに見る。
オポポニーチェの長く尖った爪が首に刺さっている。
刺さっている爪だけが黒い。サオリの血を吸っているのだろう。
サオリは動くことをやめた。
呼吸さえも遅くした。
「いい子です。オポ」オポポニーチェはいったん言葉を止めた後、仕切り直しといった感じで再びサオリに語りかけた。
エリアは後2つ。
右側には3人の亡霊が、サオリに向かって親指を突き出している。
「いやー、間に合った。この辺には、ヒッチハイクが好きな亡霊が出る事を言い忘れておった。もっとも、亡霊は勝手に乗り込んでしまうがな」久しぶりに聞くアナウンス。
サオリは冷静さを取り戻した。
ーーお坊さんもマフィアももういない。アイちゃんもギンしゃんももういない。
「ということは?」ピョーピルもクマオも、全員でサオリを見上げた。
ーー残りはアタピひとり?
自分が残れば20点。サオリはドゥームバギーの上で猫足立の姿勢をとった。左右を見渡す。オポポニーチェは見当たらない。亡霊に食べられて消えたままだ。
ーーホ。
ドゥームバギーは第7のエリア、ヒッチハイクゾーンへと突入する。
通路が狭くなる。
片側の壁には大きな鏡が並んでいる。
ドゥームバギーが半分だけ回転する。
鏡を見ながら進むようだ。
サオリは、動いて乱れた髪をサッと整えた。
このエリアでは、現世に連れていって欲しい亡霊が、自分たちのドゥームバギーに乗ってくる。
鏡を見ると、サオリの隣にも半透明のゴーストが座っている。
ーーここを越えたら1周終わる。そしたらアタピの勝ち。20点も手に入る。だから絶対に面白おじさん、改め、恐怖のオポポはやってくる。
サオリは緊張した。自分の双肩にかけられている勝利の重み。
だが、緊張に潰されるようなサオリではない。
期待に応える。
それが加藤沙織だ。
ーーあと2分。
サオリは極限まで集中した。
ーー幻想は見ない。気配だけを見る。
音楽がだんだん遠ざかる。
何の気配もない。
ーー観の目強く、見の目弱く。
鏡をぼんやりと見る。
オポポニーチェが自分の隣に座っている。
普通なら驚くところだ。
だが気配がない。
本物ではない。
サオリは集中をきらさなかった。
ーーこれは幻覚の一種。恐怖オポポには騙されない。今まで培ってきた仙術を信じる。
「ジ・ェーンド」突如、左耳に、幽霊のようなオポポニーチェの囁き声がした。
ーーあ。気配。やだっ! アタピの耳に近づきそうなくらい近いとこに、ひげ剃り跡が少しだけ残る、薄い口紅を塗った大人の口!
サオリは飛び退こうとした。
が、首に尖った刃物を当てられている気配がする。
ーーいたっ。
言うほど痛くはない。
だが気持ち悪い。
細い針が、ゆっくりと首の中に沈み込んでいく感覚。
どこまで沈み込んでいくのかと思うと恐ろしくてたまらない。
「動かないでください仔猫ちゃん。動くと私の爪が貴方のノドへと刺さっていきますよ。ゆっくりと。深ーく。ね」生温かい声が聞こえる。
鏡越しに見る。
オポポニーチェの長く尖った爪が首に刺さっている。
刺さっている爪だけが黒い。サオリの血を吸っているのだろう。
サオリは動くことをやめた。
呼吸さえも遅くした。
「いい子です。オポ」オポポニーチェはいったん言葉を止めた後、仕切り直しといった感じで再びサオリに語りかけた。