第63話 1回戦(1) First Round

文字数 1,202文字

 アリスのティーパーティー。パステルカラーの内装はあちこちで回転を始め、天井についているランタンはゆっくりと点滅する。鮮やかだ。
 一方、真言立川流は、柔道着の裾を縛ったような法衣を着ている。薄くて質素な生地。動きやすさを重視したのだろう。靴も履いていない。もしもアリスのティーパーティーにドレスコードがあるのなら、パーティには参加できない。
 そのことが分かっているのか、3人はアトラクションには足を踏み入れない。その円周を歩いていく。
 音楽は、追いかけっこでもしているかのように忙しなく流れている。
 3人はリリウス・ヌドリーナの前で止まった。5分おきに1チームずつ入れるようになるルールだ。まだリリウス・ヌドリーナは入れない。真言立川流は、選手全員の顔を順番に眺めた。
 挑発的。
 タンザとビンゴは嬉しそうだ。早く戦いたいのだろう。ルールを守って動かないものの、体の重心が前のめりに傾いている。見えない壁を挟んで一触即発だ。
 今まで積もり積もった苛立ちがあったのだろう。カンレンたちは、侮蔑の目で冷笑し、ようやく騒がしいアトラクションの中へと入っていった。
 リリウス・ヌドリーナがやってくるまで、後2分。
 真言立川流は、円周上に並べられた細い柱を触った。アトラクションの屋根を支えている柱だ。
ーーやっぱりそうか。予想通りだ。
 カンレンたちはうなづき、顔を見合わせた後、コントロール室へと向かった。
 コントロール室は、アトラクションから少しはみ出た場所にある、高さ2.5メートル程度の小さなボックスだ。ティーカップを操作する機械が並んでいる。
ーー機械を止めて、ただのプロレスリングのようにして、このアトラクションを使用するのかしら?
 初めてのキャッチ・ザ・ミッキーだ。真言立川流の動きを見ながら、アイゼンは色々な確率を考えた。
 だが、3人はコントロール室に入らない。猿のように身軽な動きで、コントロール室の屋根に上った。
 お尻につけた尻尾が揺れる。
 動きを止めず、さらに助走をつけて跳びあがる。
 目的は、地上4メートルほどの位置にある、ティーパーティー会場の屋根だった。
 突き出ている装飾をつかみ、体を引き上げる。
 真言立川流の3人は、あっという間に屋根の上に登ってしまった。
ーーこんな戦法があったのか!
 確かに、屋根の下で戦えというルールはない。だが、これは意外な戦法だった。少なくともアイゼンの頭の中にはなかった。
 ドーマウスも、ティーポットから顔を出しながらうろたえている。なんせ、ドーマウスのいる位置は、ティーパーティー会場のど真ん中だ。屋根の上は、自分のいる位置から全く見えない。
 もちろん真言立川流についている3匹の猫は、彼らの後を追って身軽にアトラクションの屋根まで跳び上がっていく。おかげで3人の坊主の様子は、ドーマウスの持つモニターや、ワイアヌエヌエ・カジノの巨大スクリーンには映っていた。
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