第109話 アトラクションツアー Tour

文字数 2,433文字

 解説席は、階下にいる客と同様に興奮していた。マックス・ビーの体温が上昇し、少し湿気を含んだ暑さになっている。一方で、フタバはスカしていた。自分が熱中しすぎて、素が出ていることに気づいたからだ。
「全チームが挑戦を受けましたねー」クーが話をふる。
「タンザという巨漢、最初は好きじゃなかったけど、なかなか好感が持てる男だね」フタバは態度こそスカしていても、言葉の端々に楽しさを覗かせてしまう。
「うむ。負けている他の2チームが受けるのはわかる。だが、勝っているヌドランゲタにとっては、挑戦を受ける利点が全くないからな」
「ブライドかね? 美学のある子は好きだなー♪」フタバが嬉しくて揺れる。
「それだけ自信があるのでしょうか? しかし、これでリリウス・ヌドリーナが1人でも残ったら、プラス20点。4回戦を待たずして勝利が決まりますね」
「うむ。タンザの自信vsオポポニーチェの遊び心。果たしてどちらの美学が打ち砕かれるのか。3回戦は、ゲームの行方を大きく左右するな」
「楽しみですね。あ、クリケットのアトラクションツアーの用意ができたようです。中継をつないでみましょう」
 2回戦のハイライトと結果が映っていた巨大スクリーンは、ホーンテッドマンション前のクリケットへと変わった。

 3回戦までは、あまり時間がない。クリケットは自分が映っていることを確認すると、すぐにアトラクションツアーの説明を始めた。
「3回戦はここ、ホーンテッドマンションでおこなわれます。1周が約12分。エリアは8つ。東京ディズニーランドでは、1,2を争う長さのアトラクションとなっております。ちなみに、私が今歩いているこの庭は、試合場には含まれません」
 説明しながらも、暗い森のように殺風景な庭を過ぎ、細い通路を進み、巨大な西洋館へと足を踏み入れる。館の灯りは、あちらこちらに置かれている燭台の焔だけだ。
 入るとすぐは、何の変哲もない四角い部屋だ、1枚の肖像画がかかっている。クリケットは歩みを止めて、カメラに向かって振り返った。
「さあ。ここからが、3回戦の始まりです! まずは第1のエリア、ゴーストホストの部屋となっております。仕掛けについてはパンフレットをご覧ください」
 それ以上の説明はない。カメラの奥にいるディレクターに急かされているようだ。すぐに隣室へと進む。
 次も最初と同じような大きさだが、部屋の形は八角形だ。壁の1枚おきに、全部で4枚、貴族の肖像画が飾られている。
「ここは第2のエリア、四大貴族の部屋です」
 パッと部屋全体を映し、すぐに反対の出口へと向かう。
 細い通路を進んでいくと、足元がベルトコンベアーになっている空間へと辿り着く。並行しているレールには、社長が座るような豪華なソファーが流れてくる。
「こちらは第3のエリア、ドゥームバギー乗り場です。バギーは3人乗り。安全バーは、自動的に下がります。参加者はドゥームバギーから2m以上、10秒以上は離れないようにお願いいたします。そうでないと、1周という縛りの意味がなくなってしまいますからね」言いながらクリケットは、カメラクルーと共にドゥームバギーに乗り込んだ。
 ここから灯りは、燭台からシャンデリアに変わる。だが、間隔が広くなっているため、さらに暗い。普通に歩けば転びそうだ。
「第4のエリアは、長い廊下です。ホーンテッドマンションで一番長いエリアとなっております」
 進んでいく通路は一本道で狭い。目の光る肖像画からはじまって、魔術書の詰まった本棚や、鍵盤が自動で動くピアノ、蜘蛛の巣、誰かが出てこようとする棺、13時まである掛け時計、歌を歌う水晶玉などを見ることができる。水晶玉の部屋が終わると、アトラクションの雰囲気が少し変わる。
 いつの間にか屋敷の上の階にいるようだ。階下では、幽霊による舞踏会がおこなわれている。
「第5のエリアは、舞踏会会場です!」
 ドゥームバギーは進んでいく。さらに暗くなり、屋根裏へ。そして、外へと飛び出す。もはや灯りは存在しない。雰囲気はおどろおどろしい。ドゥームバギーの向きが変わる。後ろ向きになったまま、クリケットは進んでいく。
「こちらは第6のエリア、墓場となります。アトラクション内で一番幽霊がいる場所といっていいでしょう。このステージの肝となります」
 ここはステージで一番暗く、一番陽気でもある。少し長めだ。胸像や幽霊が歌ったり、墓の影から亡霊が驚かせようとする。
 しばらく進むと、3人のゴーストがヒッチハイク姿が見受けられる。この辺りから音楽が変わり、鏡だらけの細い通路へと進む。石造りで、燭台が灯っている。墓場から屋敷に戻ってきたようだ。
「もう少し。ここは第7のエリア、ヒッチハイクとなります。ドゥームバギーに幽霊が乗ってきます」
 少し進むと、トンネルの上から少女の幽霊が話しかけてくる。ここを抜けると、照明のある明るい空間へと辿り着く。
「第8エリアは、降車口です! アトラクションが終わったからといって、安心してはいけません。足元のベルトコンベアにはご注意を」
 ドゥームバギーを降りたクリケットは、そのまま外まで進んでいった。道は、鬱蒼と緑が茂った庭へと繋がっている。外に出ても立ち止まらない。壁のように聳え立つ墓標の前を進みながら、なおも話を続ける。
 制限時間いっぱいまでかかった2回戦。オポポニーチェの挑戦状。そして、約12分のアトラクションツアー。
 あっという間に現在の時刻は3時44分。
 3回戦の開始時間である4時6分までは、すでに25分を切っている。
「さて、どうだったでしょうか? この不気味な建物の中で、ザ・ゲームは、ジ・エンドを迎えるのでしょうか。それとも、新たなチームが光り輝き、再び、この館から蘇るのでしょうか? 3回戦もお楽しみください!」
 クリケットはカッコつけて手をあげた。同時に、巨大スクリーンは転換される。画面には、ホーンテッドマンションの3D地図が映し出されていた。
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