第143話 ファンシィダンス(1) Fancy Dance 

文字数 1,641文字

ーー立川流が素直に私たちに鈴を渡してくれていたら、今頃、GRCとの点差は34点対46点。わずかに12点の差しかなかった。さらに4回戦で全てを渡してくれれば、9点プラスされて43点対46点。ほぼ点差なく最終戦を迎えられたのに。
 アイゼンの頭の中には、愚痴も浮かんでいた。だが、後悔役に立たず。戦略が最初から100パーセント成功する可能性はほとんどない。落胆する暇があったら状況に合わせた最善の策を打ち続けるだけだ。
 3回戦終了後、アイゼンは真言立川流のラウンジまで足を運んでいた。人によってはただの休憩時間。だが、アイゼンにとっては重大局面だ。他のチームが誰も動いていないため、大きなアドバンテージとなる。
 ラウンジのブザーを鳴らす。待っていたスタッフは、すぐにアイゼンを迎え入れてくれた。
「どうぞ、おかけください」ソファーには、3人の坊主が座っていた。さしものカンレンも傷心しているようだ。アイゼンは堂々としたまま、姿勢よく椅子に座った。
 3回戦では真言立川流がグダッた。おかげで今は、両チームとも勝利から遠ざかっている。もちろん思うことはある。だが、その感情はおくびにも出さない。出したところで相手が気分を悪くするだけだからだ。
 勝利に関係ない全ての感情はいらない。ただし「分かっているよね」という圧力はかける。結果を得るために全ての行動を粛々とおこなう。
「3回戦。残念でしたね」勧められたお茶を飲み、アイゼンから会話の端を発する。真言立川流はコミュニケーション能力に乏しい。待つ時間がもったいない。
「はい。5点を取れましたが、それ以上は……」カンレンは申し訳なさそうに返答する。
ーー2回戦までで既に40点差がついていた。今更5点がどうとか。本当に護良親王のドクロを取り戻したいという気はあるのか?
 アイゼンは苛立つ気持ちを抑え、心を無にし、微笑みながら話をした。
「初得点、おめでとうございます。ただ……」アイゼンは申し訳なさそうな顔に変えて続ける。
「言いにくいことではありますが……、残念ですが……、真言立川流は絶対に優勝できなくなりましたね……」
 全員が沈黙する。
 相手に観念した言葉を吐かせたい。負けたという言葉を発することで諦めをつかせたい。だが、真言立川流は頭が固い。このままでは埒が明かない。
 アイゼンが話を戻す。
「みなさんは、本当に護良親王のドクロを取り返したいのですよね?」
「当たり前だ!」
 感情的な言葉をぶつければすぐに反応する。カンショウは怒声と共に立ち上がった。
ーー話を聞きなさい。
 カンレンが手で押さえる。
 アイゼンは、より感情に訴える方法で話を続けた。
「現状を把握してください。真言立川流を敵とみなしているヌドランゲタは、みなさんの目の前で髑髏本尊を破壊してやると息巻いております。GRCも粉々にして錬金術の材料にするそうです。みなさんは得点的に優勝できません。髑髏本尊を守るにはKOKが優勝するしか方法がありません!」
「観蓮様から聞いたのだが……」ジャクジョウが口を開く。
「優勝すれば髑髏本尊を私たちにいただけるのでしょうか?」自分が無視がいいことを言っていると分かっているようだ。言葉が弱い。
「いいえ」後で齟齬があっては、カンレンの責任になってしまうかもしれない。アイゼンは完全に否定した。
「けれども悪用せず、KOKが使用する時だけ返却してくだされば、髑髏をお貸しし続けます」13個集まらないと発動できないDeath13だからこそ、貸しておいても問題はない。真言立川流では絶対に発動できないからだ。
「いつ返却するのだ?」カンショウも聞く。
「分かりませんが、返却の必要がある時には1ヶ月前に連絡します。それからメンテナンスも含め、1度に2週間ほどしかお借りしません」
「なるほど、しかし」
「それ以外に、みなさんの手元に護良親王のドクロが戻ることは絶対にございません!」ジャクジョウの言葉が聞こえなかったとでもいうように、アイゼンは強い語調で言葉を重ねた。
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