第78話 休息(3) Rest

文字数 1,788文字

 真言立川流のジャクジョウは、試合後、すぐに医者によってケガの具合を確かめられた。気絶するほどの襲撃を喰らったのだ。だが、2メートル近い大きな体が幸いしたのだろう。すぐに立ち上がることができた。
 最初に倒されたカンショウは、先に救護室に運ばれている。ここにはいない。カンレンとジャクジョウは、医者と白いお姫様と共に、クマの水兵が運転する白いクラシックカーに乗りこんだ。
 時間にして3分ほど走る。
 案内されたのはトゥモローランド。白い大きなドーム型の建物、スペースマウンテンの2階にあるラウンジだ。
 ラウンジに入る。
 和風で壁が白い。家具は赤で統一されている。小物は全てコカコーラ社製品だ。テレビの横にはケータリングが置かれている。
 テレビでは、時間がカウントされている。
ーー今は0時50分、か。
 部屋に入ると、ソファーにはカンショウが、別の医者とともに座っていた。先ほどまで横になっていた形跡がうかがえる。
「いい、いい。次戦もあるのだ。横になって話を聞きなさい。寂乗。あなたも同様だ」
「わかりました」
 カンショウとジャクジョウは、大人しく言うことを聞いた。そのくらいのダメージが残っている。 
「それで、2人の怪我の具合は、どのような感じでしょうか?」カンレンは医者に尋ねた。
「はい。観照さんは全身打撲と脳震盪、寂乗さんは左の肋骨を1本折られています」医者は情報を照らし合わせた後、素早く、簡潔に答えた。
「なるほど。ありがとうございます」
「何かございましたら、あちらにあるインターフォンでお呼び出しください」
 邪魔だと思ったのだろう。2人の医者は、お辞儀をしてラウンジから出ていった。
 無傷で1回戦を終えたのはカンレンだけだ。改めて、横たわるカンショウとジャクジョウを目視する。外見上は問題なさそうにみえる。カンレンは2人に慰めの言葉をかけた。
「1回戦は仕方がない。拙僧が上手く戦況を操れなかったこと。それが全ての原因である」
ーーどこか緩みがあったのかもしれない。だが、2回戦からはもう、一切、相手をなめてはかからない。石橋を叩くように、堅実にポイントを稼いでいこう。
 カンレンは落ち着いていた。他人のせいにする人間は弱い人間だ。この世界は自分が変わらなければ何も変わらない。未来は自分が切り拓かなくてはならない。そして戦いは、最後に勝っていればいい。挫折と成功を繰り返して今の地位にたどり着いたカンレンは、教団内だけで過ごしてはいるが、そのことをよく知っていた。
「それで、2人は動けるのか? 正直に、正確に教えてくれ」
 カンショウは早口で答えた。
「俺は骨に異常はありません。少し脳がフラフラとしていましたが、次の試合までには完全に治るでしょう。打撲の痛みは、集中すれば感じません。ほぼ、本来の動きで動けます」
「なるほど」
 次はジャクジョウだ。声は落ち着いているが、落ち込んでいるようにも聞こえる。
「拙僧は正直、肋骨が折れている感覚があります。もちろん、痛みは止められます。けれども、条件反射によるものなのか、ひねる動きをすると一瞬、動きが止まってしまいます。金剛を使用してダメージを押さえることはできますが、素早い動きは不安です」
 金剛とは、醍醐三宝院流戦闘術の1つだ。硬気功と筋肉の複合技により、体を頑強にする。
「普段の何割くらいの力が出せそうだ?」
 カンレンは、ちょっと、だいたい、たくさん、などの、時間、場所、目的によって全く変わってしまう言葉を求めない。嘘もいらない。数字や割合で情報を知りたがる。そうでなければ冷静な判断ができないからだ。
 その分、どんなに不利なことを言ったとしても、相手のことは決して怒らない。ジャクジョウは、自分の体と相談しながら答えた。
「防御8割、攻撃5割、というところでしょうか」
ーー囮としてなら使える、か。
「……なるほど。ありがとう」
ーーこれを題材にして、次の試合の戦略を立てよう。
 突然、テレビから音声が流れる。
「1時6分。準備が整いました。それでは、ただいまから2回戦のステージをご案内いたします。アトラクションは、プーさんのハニーハントとなっております!」
 テレビ画面いっぱいに、ジムニー・クリケットが映っている。大きな開いた本のオブジェの下、緑色の頭を振って歩いている。
ーー次の試合場か!
 3人は、食い入るようにして画面を注視した。
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