第167話 4回戦(10) Final Round

文字数 1,492文字

 ボルサリーノの細い体は矢のように一直線に、オポポニーチェの首に向かって飛んでいく。距離も方向も完璧だ。オポポニーチェはサオリの暴れっぷりに夢中になっている。完全に意識外からの攻撃。それでもオポポニーチェは一流だ。一瞬早く気づく。
「オポポー」バレリーナのように背筋を反らせて後方に避ける。
 避けた首元に手が伸びる。
ーー人!?
 人が遠くから飛んでくるのは想定外だ。いや、もしまだビンゴとボルサリーノが他の場所に隠れていると考えていたら、その選択肢も思いついたかもしれない。
 だが、ビンゴはともかく、ボルサリーノは確実にサオリと共に要塞に立てこもっていると思っていた。影から出てこない臆病感。城壁の隙間から見える細い腕。決定打となったのは「ヤンス」という独特な語尾の高い声だ。どこをとってもボルサリーノの存在を証明していた。
ーーただ、人ならばエリクシール・ポワゾンで同期できます。その後で態勢を整えて仕切り直しましょう。
 オポポニーチェはファンタジーを使用しながら、伸びてくる手を払おうとした。
 が、追尾レーダーでもついているかのようにボルサリーノは直角に急加速する。アイゼンがボルサリーノに体当たりしたのだ。偶然ではない。伸ばした腕の長さと向きで距離を示し、もう片手の立てた指の本数で修正の力具合を知らせる。ビンゴルサリーノ砲が外れることも想定した、動体視力に優れたアイゼンならではの戦術だ。
 とはいえ完璧ではない。ボルサリーノは指2本くらいの力を加えて欲しかった。だが鈴を取る手を広げた時、つられて両手とも指を開いてしまった。ゆえに攻撃力は2ではなく5。3メートルはズレている計算でアイゼンは体当たりをした。ボルサリーノでなければ大怪我をしているところだ。
「オ゛ッ!」ボルサリーノの勢いは凄まじい。まるで流星のようだ。オポポニーチェでは受け止め切れない。2人は共に水中に落ちた。
 ボルサリーノはすでに認識され、エリクシール・ポワゾンにかけられている。だが、こうまでもつれ合っていれば関係ない。あとは覚悟の問題だけだ。自分の命をかけて攻撃を仕掛けたボルサリーノ。予想外の方向から突然襲われたオポポニーチェ。結果は火を見るより明らかだった。
 ザバァ。
 だが、水中から立ち上がったのはオポポニーチェだ。体力に差があり過ぎた。ボルサリーノは浅い水の中でゴボゴボと言っている。オポポニーチェは沈むボルサリーノを見下ろした。
「オポポ」
 アナウンスが鳴り響く。
「6時32分5秒。黄金薔薇十字団。オポポニーチェ・フラテルニタティス。アウトだ」
 遅れてボルサリーノが立ち上がる。
「取った! 取ったでヤンス!!」大喜びだ。口から水と涎が流れている。自分の命に手が届いたのだ。当然だろう。オポポニーチェは茫然自失に陥った。早くアイゼンたちを倒してゆっくりサオリと遊ぼうと思っていたのに。まさかこんな伏兵に首を刎ねられるとは。
ーーラーガ・ラージャたちから狙おうと思っていたのに、ついエスゼロちゃんに気を取られ過ぎてしまったのが敗因だわ。
 そして幻覚が解けた要塞上のサオリも、夢から覚めたような顔をしてオポポニーチェと同じ姿で立ち尽くしていた。
ーー誰もいないと思って大声で熱唱していたら誰かに聞かれてた。そんな気分。
 サオリは恥ずかしくなって、ゆっくりと城壁の陰にしゃがみ込んだ。
 幻覚は解けた。
「エスゼロ! 落ち着いたらおいで!」
「ビンゴ! ボルを連れて来い!!
 犬が吠えるがキャラバンは進む。幻覚が解けてもバトーは止まらない。アイゼンとタンザを乗せたバトーは、第7エリアの海賊街ステージへと進んでいった。
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