第157話 VIPルームC VIP Room C

文字数 1,231文字

「最終予想が発表されましたね」
 マクジョージ・バンディはただうなづくだけだ。
「フタバエンドはまだ自信ありげにKOKが勝利すると言っています」ハリーは1人で話している。不快な空気ではない。マクジョージのような天才タイプは多くを語らないだけだ。
「その上、ジョットまでがKOKに賭けていますよ」
 マクジョージはようやく、馬鹿にしたような口調で言葉を発した。
「まぁ、フタバエンドも有名とはいえ所詮は黄色人種。賭け事とはどういうものなのか、冷静な分析ができないのであろうな」
「ということは?」ハリーは自分が推薦した黄金薔薇十字団が誉められることを密かに希った。
「勝つのはGRCだ。間違いない。実力だけではない。策略には裏があるのだ」
「目に見えている情報だけではないということですか?」言っている意味がわからない。ハリーはなおも尋ねる。
 マクジョージは冷酷に口の端を緩めた。
「そうだ。本質を知るには裏側も知れ。このゲームを動かしているのは我々バンディ家だ」
「マクジョージ。何か秘策でもあるのですか?」いつも天才には驚かされる。ハリーは裏側を知りたくなった。
「もちろんだ」マクジョージはゆっくりとソファーに腰を下ろし、競技者の映っているテレビを指さした。
「この中で、GRCの脅威になるのは誰だろう」ゆっくりと指を動かす。
「まず、坊主どもではない。それから、力頼みのマフィアでもない。こいつら。Fに対して造詣が深く、自身たちもFを使用できる可能性の高いチーム。つまりKOKだ」
 ハリーは驚いた。点差の近いリリウス・ヌドリーナではない。ダビデ王の騎士団が脅威だとは。
「それでは、フタバエンドの解説していることは……」
「そう。あながち間違いではない。だが」マクジョージは足を組み替えた。
「私は負ける試合はしない。KOKは絶対に勝てん。そういう策略を立てているのだ。この私自らが、な」
 ハリーが策略の内容を聞きたいという顔をしている。
「聞きたいか?」マクジョージは、ふん、と一度鼻を鳴らした。
「KOKの策略を考えているのはラーガ・ラージャだ。そして私は、彼女の師匠であるヤマナカと懇意にしている。そのヤマナカを通して彼女とはある契約が交わされている。KOKは絶対にザ・ゲームに勝ってはいけない、という契約をな」
「どういうことです?」ハリーは不思議がった。
「人は皆、自分の欲しいものに引っ張られて生きてしまう欲望の奴隷だ。私は彼女に、優勝よりもさらに欲望を充足させる条件を出した。それだけのことよ」
「条件?」全く分からない。
「ふふ。無粋なことを聞くな。未来を語るほど退屈なことはない。見ていればわかる。私の言っていることがどういうことかがな」マクジョージはテレビではなく、マジックミラー越しに会場内の巨大スクリーンをじっと見つめた。世界を支配する家に生まれたモノ特有の絶対的強者の目線だ。
 スクリーンに映る選手たちはカリブの海賊の入り口で牙を研いでいる。
 時間だ。
 最後の戦いが始まる。
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