第115話 準備完了 Ready

文字数 1,577文字

 「みんな。聞いてください」 
 カンレンは控室に戻ってお茶を一口飲んだ後、カンショウとジャクジョウに声をかけた。2人は体調を整えろという命令をもらっている。礼は失するが、かぶっていた毛布から顔だけ出して話を聞く体勢をとった。
「拙僧は今、KOKと契約を締結してきました。3回戦から、我々は優勝を狙わない。全面的に、KOKの優勝に手を貸します」
 驚いた顔の二人を見ながらも、カンレンは話を止めなかった。
「彼らは、優勝だけが目的です。目的を果たせれば、髑髏本尊は必要ない。1年に2週間だけ返却すれば、残りの期間は我々に預けてくれる。そういう契約をしてまいりました」
「しかしっ!」ジャクジョウが傷んだ半身を起こす。騙されていると思ったのだ。カンレンは手で制した。
「今回のザ・ゲーム。これ以降は、拙僧らの鈴を、全てKOKに預けます。彼らに命運を託す。残念ですが、これが一番勝率の高い方法です」
 カンショウは、身を乗り出して感情を爆発させた。
「はーっ? ふざけないでください! 俺はまだ、ヌドランゲタに何の借りも返せていない!! 断固として反対です!!
 木を見て森を見ず。このタイプの人間を説得することは難しい。なんせ、自分が分からないことが分かっていないのだから。
「悔しいのはわかる。だが、このままでは、髑髏本尊を取り戻せないのだ。酌んでくれ」
 カンショウは歯噛みした。ダビデ王の騎士団が優勝するために協力する。これは百歩譲って許せる。だが、1、2回戦ともリリウス・ヌドリーナにいいようにしてやられた身としては、これ以降の試合に参戦できないのは辛い。自分は強く、まだ戦える。アイデンティティーを取り戻すため、少しでも仕返しをしたいのだ。
 緊張した沈黙を破るように、ジャクジョウが優しく口を開いた。
「私は……少し取り乱しましたが……、次期僧主である観蓮様のご意思にお任せいたします。どうせ私が出ても、もう満足には動けません。他のチームに私の鈴を奪られるのなら、一度も私たちに攻撃を仕掛けてこなかったチーム、KOKに託すのも悪くないと思います」
「恩に着る」カンレンは頭を下げた。
「いえ、私が弱かったことが悪いのです。さ。観照。あなたもいつまでも、観蓮様を困らせるでないぞ」
「……少し考えさせてください」
 一番年下のカンショウは起き上がり、傷む体を引きずりながら、外へと頭を冷やしにいった。

 一方、アイゼンだ。自分たちのラウンジに戻ると、ギンジロウはまだ、外で模擬刀を振っていた。うっすらと汗をかいている。目は一点を見つめている。アイゼンが来たことには気づいていない。刀を振りながら、精神を練り上げているのだろう。
 アイゼンは、声をかけずにラウンジに入った。入るとサオリが、子供用の二段ベットの上で、クマオを抱きながら眠っている。
ーー可愛い。
 アイゼンはサオリの寝顔を見た後、牛乳を温めてソファーに座った。テレビはちょうど、クリケットのアトラクションツアーが終わったところだ。3回戦の特別ルールと、ホーンテッドマンションの3Dマップが画面左に、アトラクションツアーの録画が右に流れている。
 アイゼンは心と体を休ませ、テレビを見ながら、次の試合の作戦を考えることにした。
 1分も経たずに、また、例のアナウンスが鳴り響く。
「現在、時刻は、午前4時となりました。みなさま。外に車がご用意してございます。なるべくお早めに、ホーンテッドマンションへとご集合ください」
ーーあと6分、か。
 アイゼンはサオリの頬をつついた。柔らかい。癒される。
「ん?」サオリは、寝ぼけ眼でアイゼンを見た。
「時間だよ」
 サオリは、自分が寝ていたことに驚いた。しかも、いつの間にかベッドで眠っている。
ーーこのベッド、フワフワで気持ちよ。
 寝る子は育つ。
 サオリは今、この瞬間にも、急速に成長を続けていた。
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