第79話 アトラクションツアー Tour

文字数 2,210文字

 テレビ画面の半分に、プーさんのハニーハントの立体地図が映し出される。
 画面のもう半分にはクリケットが映っている。アトラクションの説明をしてくれるようだ。まずは、イギリス風の庭園に入っていく。
「今回のステージは、10のエリアに分かれています。時間は1周、約4分30秒! いやー、1回戦はこのアトラクションツアーがなかったので、今回は気合入ってますよー。皆さんも、どの選手がどこでどう戦うのか、ぜひとも想像しながらご覧ください!!」クリケットは嬉しそうだ。本当に仕事が好きなのだろう。
「ここの外庭はQラインです。試合場ではありません!」
 Queue lineとは、ゲストが待機列を作る場所のことだ。まだ試合場ではないらしい。白い屋根がついた道を進んでいく。建物の中に入る。
「さあ。ここからが試合場です!」
 目の前には英国風の納屋がある。茶色い自然な木の色を基調とした、雑然とした部屋だ。青い風船が浮かんでおり、他にもたくさんのおもちゃが転がっている。
「1つ目のエリアは、納屋です! 狭い場所ですね、これは……。おっと、私は公正な進行者です。自分の思いなど話しませんよ! ただ、淡々と説明するだけです!!」クリケットは高い仕事意識を持って進んでいく。
 本の模様が描かれた壁をくぐり、本のオブジェが並んでいる部屋につく。本はページごとに分かれており、20枚ほど、垂直に立ち並んでいる。1枚ずつの薄さは30センチ程度。材質はプラスチックで、幅と高さは2メートル×3.5メートル程度だ。他に、低い鉄柵が何本も立っており、蛇行した通路が作れるようになっている。普段はチェーンがついているのだが、今回はついていないようだ。
「2つ目のエリアは、絵本の森です。オブジェにはプーさんの物語が絵入りで描かれています。ピノキオも面白いですが、プーさんも面白いですよね」クリケットだけあって、ピノキオの宣伝も忘れない。
 少し進むとすぐに暗い場所に着く。暗闇から、人が乗れる大きさの蜂蜜壺が流れてくる。
「3つ目のエリアは、搭乗口です。急に暗くなりますね。このハニーポットは1壺5人乗り。3壺が1つに繋がってやってきます。下にレールはなく、コントロールは無線LANと電磁誘導コイルが使用されております! 対物センサーもついておりますので、ぶつかる心配もございません!」クリケットはハニーポットに乗り込んだ。
 本の壁に開いた穴を通り抜け、明るく大きな森へと進む。
「4つ目のエリアは100エーカーの森! 物語の舞台にして、このステージ最大の広さを誇ります!! 鬱蒼と茂った森は隠れる場所も多く、おそらく勝敗の鍵を握るエリアのひとつとなるでしょう」私情を挟まないと言ったのに、もう自分の意見を挟んでいる。
 木の上の家や個性的なキャラクターが織りなす数々のアトラクション。どこを見ても楽しい雰囲気だ。しばらく進むと、直立したオレンジ色のトラ、ティガーの案内により、暗くて小さなエリアへ続く。 
「5つ目のエリアは、ティガーの蜂蜜とりです。下に20センチほど跳ねるトランポリンがあり、映像と連動して、小さく跳ねる仕組みになっております」
 ティガーが蜂蜜を取るのに失敗した映像が終わると、再びハニーポットが動き出す。暗い通路。すぐに止まる。目の前にはプーさんがいる。
「6つ目のエリアは、スペースプーさん。暗さと明るさが急転します」
 目の前にいたプーさんが、空中に浮かんで消える。夢を見ているという設定だ。部屋が開く。紫を基調としたおどろおどろしいサイケデリックなエリアへと移動する。
「7つ目のエリアは、夢の世界。ここは100エーカーの森と同じく、このステージ最大の広さ。しかも、先ほどよりもさらに暗いので、隠れやすさは抜群です!」
 プーさんの夢の中の世界なので、見たことのない動物がたくさんの物語を彩っている。これらの動物たちが、2回戦も彩ってくれるのだろう。
 そして、夢が覚めるような景色。ハチミツだらけの小さな部屋。プーさんが喜んでいる。ハチミツを手に入れた場面だ。
「8つ目はハチミツの間。部屋としては最後のエリアです」
 クリケットを乗せたハニーポットは、The Endと書かれた本の壁を越え、細く暗い道を進む。
「9つ目のエリアは、この、ただ細いだけの道。現実への通路です」
 ハニーポットはゆっくりとなる。
 クリケットは降りて、出口に向かって進んでいく。
「最後のエリアはここ、クリストファー・ロビンの部屋になります」
 通路にそって、子供用のベッドと机、ぬいぐるみになったプーさんがランプや地球儀と共に並んでいる。見ているだけでも物語があって楽しい。
「建物から先と、プー横丁は試合場ではございません。お間違えなく!」
 プーコーナーはお土産物屋さんだ。言いながらクリケットは外に出る。
「わっ暗い! 外はまだ夜でした!」
 クリケットは驚いたような顔をしながら、スポットライトが照らしている場所に立つ。カメラが上半身にズームアップされる。
「皆さん! 2回戦ステージの様子がお分かりいただけたでしょうか? クー! 私も予想を話し合って、思いっきり自分の推しチームに賭けてみたい! 次戦もぜひお楽しみください! それではクー! ワイアヌエヌエ・カジノにお返ししまーす!」 クリケットが手をふり、映像はゆっくりと終了した。
 巨大スクリーンには、再び1回戦の映像が流れ始めた。
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