第223話 イタリア大使館(2) Embassy
文字数 1,982文字
身長は、ビンゴの方が三十センチほど大きい。だが体重は、二人とも同じくらいだ。
「ぶおおおおお」
大ヤコブは相撲のように、ビンゴを横に放り投げた。
バランスを崩すビンゴ。だが、同時に張り手を喰らわせる。
ビンゴの戦いの真骨頂は、長い手足での攻撃だ。相手に攻撃させず、自分だけが攻撃する。ただし、片手を怪我している。体重がうまく乗らない。その隙をつかれる。
「ぶおおおお」
大ヤコブは、頭からビンゴに突っ込んできた。いつもなら両手でうまくいなす。だが、片手なので止められない。
ドガシャーン。
ビンゴは飛ばされ、イタリア大使館の壁を突き破った。
突然、タンザが走り出す。
ーー助けに行く?
いや、大ヤコブとビンゴの横を通り過ぎる。
ーー大将を倒せば、戦いは終わりだ。
タンザは敵のボス、ゴスロリの小娘の首を狙いにいった。彼女さえ倒せば、大ヤコブも動揺するはずだ。
だが、少女は動揺していない。それどころか、ひらひらのスカートの裾を持ち、タンザに優雅なお辞儀をする。
ーー知らねぇよ。
タンザには一切の躊躇がない。どんなに見栄えがサオリでも、中身は純粋に、黒い邪悪だ。走りざま、勢いよく少女に蹴りを入れた。
ーーまたこの感触かよ。
サオリのモードアルキメストと同じ感触。ダメージが通らない。
ーーま、予想してたけどな。
タンザは止まらず、娘の顔をムンズと掴んだ。
手を引っ掻かれる。
が、関係ない。タンザはそのまま、娘の体を振り回した。どんな衝撃も効果はないのだろう。だが、頭を振られれば、三半規管は揺れる。脳を頭蓋骨に叩きつけられ続ければ、やがては失神するだろう。
代表戦でのサオリとは、正々堂々、真正面から戦う心構えだった。ゆえに、お互い、ただ殴り合った。だが、今は戦争だ。相手に遠慮する謂れはない。思う存分、相手を壊す作戦を取ればいい。
ーーカニの甲羅が壊せねぇ。なら、中身を茹でるまでよ!
振られる娘は必死にもがく。大ヤコブは、慌ててタンザに向かう。だが、ビンゴが長い腕でしがみつく。助けることを許さない。
前に進めないことを知った大ヤコブは、体をビリビリと震わせた。
「グアァァァァァァッッッ!!!」
今まで以上の大声。空気が震え、体が光る。
しがみついていたビンゴは、体が痺れ、再びハジキ飛ばされた。
「ウオォォォォォォン!!」
大ヤコブは、鎖から解き放たれたサイのように、タンザに向かって走っていく。
タンザは、大ヤコブに向かって、娘を持った腕を振り落とした。
ドウ。
大ヤコブの顔が弾き飛ばされる。
ーーやはり、か。
タンザは確信した。
攻撃が効かない者と、攻撃が効かない者。両者をぶつけ合わせれば、どちらかはダメージを喰らうという仮説。
答えは、両方がダメージを喰らう、だった。
ーーこいつを使って、デカブツを潰す。
思った瞬間、小娘を持っている左手の小指に、鋭い痛みを感じた。
ーーうっ。
自分の指。
地面に落ちている。
まるでフランクフルトのように無機質だ。
小指のあった部分には、黒い小人が、歯を向いてタンザを見ていた。
痛みに耐える覚悟はしていた。だが、未知に対しての覚悟はなかった。想像できない未来を、人は恐れる。
ーーうわっ。
タンザは、思わず娘を投げ飛ばしてしまった。
娘は空中で一回転し、黒いレースのついた日傘を取り出すと、ゆっくりと空から滑降した。
まだ左手には黒い小人がついている。
タンザは、ケガしている右手で掴み、思い切り地面に叩きつけた。
「うげっ」小人が呻く。
さらに念入りに踏み潰す。
ムギュー。
すかさず後方に下がる。
様子を伺う。
「やったなー」
娘は日傘を閉じ、優雅な足取りでタンザに向かってきた。
黒い小人も、タンザの足跡ができている地面から立ち、タンザを指差して大笑いしている。
ーーちっ。ヤベェな、こりゃ。
タンザは戦闘の天才だ。一度見たものなら、様々な対応策を考えることができる。だが、未知のゴスロリと、未知の小人。未知のレオタードを着た大男に、未知の郵便馬車。どれほど対策を立てようとも、想像が現実に追いつかない。全てが未確定。空想にしか感じられない。
ビンゴは倒れている。ボルサリーノも腰が抜けている。この異常な状況だ。おそらく、助けはこない。
ーー作戦を考えてぇ。防御を固めて、好機を待つ。
タンザは背中を丸めて、ボクサーのような構えをとった。これで相手の攻撃を分析しながら、次の手を考える。
ーーこいつらは錬金術師だ。エスゼロやオポポニーチェと同じ。間違いねぇ。攻撃は効かねぇが、錬金術師同士をぶつければ、ダメージを与えることができる。振り回せば中身は人間。体内を破壊することもできる。
娘と大ヤコブに対する策はある。だが、黒い小人。こいつだけがどうにも得体が知れない。
ーーとりあえず、攻撃してみっか。
タンザは、小人に近づこうとした。
「ぶおおおおお」
大ヤコブは相撲のように、ビンゴを横に放り投げた。
バランスを崩すビンゴ。だが、同時に張り手を喰らわせる。
ビンゴの戦いの真骨頂は、長い手足での攻撃だ。相手に攻撃させず、自分だけが攻撃する。ただし、片手を怪我している。体重がうまく乗らない。その隙をつかれる。
「ぶおおおお」
大ヤコブは、頭からビンゴに突っ込んできた。いつもなら両手でうまくいなす。だが、片手なので止められない。
ドガシャーン。
ビンゴは飛ばされ、イタリア大使館の壁を突き破った。
突然、タンザが走り出す。
ーー助けに行く?
いや、大ヤコブとビンゴの横を通り過ぎる。
ーー大将を倒せば、戦いは終わりだ。
タンザは敵のボス、ゴスロリの小娘の首を狙いにいった。彼女さえ倒せば、大ヤコブも動揺するはずだ。
だが、少女は動揺していない。それどころか、ひらひらのスカートの裾を持ち、タンザに優雅なお辞儀をする。
ーー知らねぇよ。
タンザには一切の躊躇がない。どんなに見栄えがサオリでも、中身は純粋に、黒い邪悪だ。走りざま、勢いよく少女に蹴りを入れた。
ーーまたこの感触かよ。
サオリのモードアルキメストと同じ感触。ダメージが通らない。
ーーま、予想してたけどな。
タンザは止まらず、娘の顔をムンズと掴んだ。
手を引っ掻かれる。
が、関係ない。タンザはそのまま、娘の体を振り回した。どんな衝撃も効果はないのだろう。だが、頭を振られれば、三半規管は揺れる。脳を頭蓋骨に叩きつけられ続ければ、やがては失神するだろう。
代表戦でのサオリとは、正々堂々、真正面から戦う心構えだった。ゆえに、お互い、ただ殴り合った。だが、今は戦争だ。相手に遠慮する謂れはない。思う存分、相手を壊す作戦を取ればいい。
ーーカニの甲羅が壊せねぇ。なら、中身を茹でるまでよ!
振られる娘は必死にもがく。大ヤコブは、慌ててタンザに向かう。だが、ビンゴが長い腕でしがみつく。助けることを許さない。
前に進めないことを知った大ヤコブは、体をビリビリと震わせた。
「グアァァァァァァッッッ!!!」
今まで以上の大声。空気が震え、体が光る。
しがみついていたビンゴは、体が痺れ、再びハジキ飛ばされた。
「ウオォォォォォォン!!」
大ヤコブは、鎖から解き放たれたサイのように、タンザに向かって走っていく。
タンザは、大ヤコブに向かって、娘を持った腕を振り落とした。
ドウ。
大ヤコブの顔が弾き飛ばされる。
ーーやはり、か。
タンザは確信した。
攻撃が効かない者と、攻撃が効かない者。両者をぶつけ合わせれば、どちらかはダメージを喰らうという仮説。
答えは、両方がダメージを喰らう、だった。
ーーこいつを使って、デカブツを潰す。
思った瞬間、小娘を持っている左手の小指に、鋭い痛みを感じた。
ーーうっ。
自分の指。
地面に落ちている。
まるでフランクフルトのように無機質だ。
小指のあった部分には、黒い小人が、歯を向いてタンザを見ていた。
痛みに耐える覚悟はしていた。だが、未知に対しての覚悟はなかった。想像できない未来を、人は恐れる。
ーーうわっ。
タンザは、思わず娘を投げ飛ばしてしまった。
娘は空中で一回転し、黒いレースのついた日傘を取り出すと、ゆっくりと空から滑降した。
まだ左手には黒い小人がついている。
タンザは、ケガしている右手で掴み、思い切り地面に叩きつけた。
「うげっ」小人が呻く。
さらに念入りに踏み潰す。
ムギュー。
すかさず後方に下がる。
様子を伺う。
「やったなー」
娘は日傘を閉じ、優雅な足取りでタンザに向かってきた。
黒い小人も、タンザの足跡ができている地面から立ち、タンザを指差して大笑いしている。
ーーちっ。ヤベェな、こりゃ。
タンザは戦闘の天才だ。一度見たものなら、様々な対応策を考えることができる。だが、未知のゴスロリと、未知の小人。未知のレオタードを着た大男に、未知の郵便馬車。どれほど対策を立てようとも、想像が現実に追いつかない。全てが未確定。空想にしか感じられない。
ビンゴは倒れている。ボルサリーノも腰が抜けている。この異常な状況だ。おそらく、助けはこない。
ーー作戦を考えてぇ。防御を固めて、好機を待つ。
タンザは背中を丸めて、ボクサーのような構えをとった。これで相手の攻撃を分析しながら、次の手を考える。
ーーこいつらは錬金術師だ。エスゼロやオポポニーチェと同じ。間違いねぇ。攻撃は効かねぇが、錬金術師同士をぶつければ、ダメージを与えることができる。振り回せば中身は人間。体内を破壊することもできる。
娘と大ヤコブに対する策はある。だが、黒い小人。こいつだけがどうにも得体が知れない。
ーーとりあえず、攻撃してみっか。
タンザは、小人に近づこうとした。