第35話 ザ・ゲーム(2) The Game

文字数 1,951文字

 その後、フタバの取り出した契約書にサインをし、全員解散となる。
 アイゼンはインタビューの続きを受けるため、日本武道館に戻った。
 フタバは迎えが来ており、セバスチャンの運転でトリュフと共に帰っていった。
 ギンジロウはタクシーを呼んでもらっている。「一緒に乗らないか」とサオリも誘われたが、九段下から四谷まではそう遠くない。火照る心と体を鎮めるために、1人で走って帰ることにした。

ーーやっとリアルカディアに戻れるねー。
「まだわかんないじゃーん」キーピルだ。
 確かに、勝たなければダビデ王の騎士団に入団することはできない。ということは、錬金術師に戻ることもできない。
「ザ・ゲームって怖くないの?」アオピルも震えながら言う。
ーーあ。確かに。
 ザ・ゲームは危険な香りがする。だが、なぜか全く怖くない。
 サオリは考えた。すぐに答えがわかる。今回は、アイゼンと一緒に戦うから怖くないのだ。今日一日のアイゼンの戦いを見ていたら、誰だって不安なんてなくなる。 
ーーアタピ、絶対勝てる気がする。
「なんたって、アイちゃんと一緒だもんなー」シロピルがうなづく。
「ギンジロも成長してたよ」アカピルも楽観的だ。
ーー確かに確かに。
 サオリはそれに、自分自身の成長も楽しみだった。毎日ミハエルと特訓をしている技を、試合だったら思い切り使っていい。それが嬉しいのだ。
ーーあとは、ミハエルに報告しなきゃ、ね。
「U2」ピョレットが項垂れる。
「でももう、さすがに止めはしないでしょ」シロピルがリーダーぶる。
「死なないしねー」キーピルも浮かれている。
「しねーだって!」アオピルはキーピルに絡んだ。
「死なないよー」アカピルも輪に加わる。
 ピョーピルはキャッキャ言いながら、サオリの体を縦横無尽に駆けずり回った。

 家に帰ると、さっそく、階段の上からピンクのぬいぐるみが降ってきた。クマオだ。全段飛ばしで、直接サオリの胸にダイブする。
「サオリー。えらい遅い帰りやないかー。待っとったでー」
 サオリはクマオを受け止めた。
「ナイスキャッチー!」アカピルが褒める。
「なーなー。観たか? あの、アイゼンの凄い突き」クマオは興奮している。
「見た見た」サオリはお姉さんぶって答えた。
「まさか、優勝するとは思わんかったなー」
 サオリは、荷物を置いて偉そうに言った。
「んーん。アタピは思ってたよ。優勝するって」
 クマオは訝しげな顔をした。
「そないなこと後で言うたかて、そのー、あのー、……なんとかの、なんとかやで!」クマオは諺を言おうとしたが、何も思いつかなかったようだ。
「サオリー。ちょっと来なさい」ミハエルだ。
「はーい」
ーーキンチョー。
 サオリは着替えを済ませて、1階に降りた。
「食事は食べたか?」サオリは首を振った。
「どうする? 作ろうか?」
 ミハエルは大きな体に似合わず、ピンク色のエプロンをつけている。チョコレートケーキを作っていたらしいが、これは、明日固まるまでは食べられない。
「んーん。冷蔵庫にあるの、食べる」
 サオリは冷蔵庫の中から、茹でたブロッコリーと鳥の胸肉、それからゆで卵を出して自分のお盆に乗せた。いつも大量に常備してある。
「いただきます」
 サオリは、小さな口で細かく食べ始めた。ミハエルは洗い物をしている。

「ミハエル」
「ん?」
「今日ね、フタバと会ったって話したでしょ?」
「ああ」
「ザ・ゲームって知ってる?」
「……ああ」
 ミハエルの皿を拭く手が止まった。
「それに出場することになった」
 パリ。
 つい力が入った。ミハエルは、割れた皿をサオリに見せないようにした。
「そうか……」
 ミハエルは心配だが、もう止めないと決めていた。
「ルールは?」
「3人1組のCランク限定戦だって。アイちゃんとギンさんも一緒だよ」
ーーCランク限定であの2人も一緒なのか。ならば死ぬことはない、か。
 ミハエルは少し安堵した。
「そうか。まだ、どんな内容かはわからないのか?」
「うん。選考結果は1週間後、試合は2週間後だって」
「なるほどな」
 ミハエルは少し考えてから言った。
「ちゃんと教えてくれてありがとう。もう、サオリの選んだ道を止めたりはしない。応援しよう。試合内容がわかったら、修行に取り入れることができるかもしれん。その時は、また教えてくれ」
「うんっ!」
 サオリは、怒られなくてよかったと思った。しかも、ミハエルが味方になってくれるなら天下無双だ。ますます自信を持って試合に臨める。
「なにっ! なになになに? またアイゼンの試合、見られんのか?」
 クマオはまだ何も知らない。サオリは食事をしながら、クマオに今日あった話を色々聞かせた。サオリとクマオは、お互い話しながら、ドンドン興奮を高め合う。「選考に落ちてくれたらいいな」という、ミハエルの思いなどは全く知らずに。
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