第75話 VIPルームB VIP Room B

文字数 2,042文字

 VIPルームBの前室には、8名の黒いスーツを着た男と、6名の白いスーツを着た男がいた。それぞれが固まり、スクリーンで試合を見ている。黒スーツの中には黒人が2名。それ以外は全員白人だ。白スーツの男たちも全員白人だが、少し顔がくどく、日に焼けているものが多い。
 2つのグループは、1回戦が始まる前よりも距離が近くなっている。黒スーツと白スーツ同士で握手をしている者もいる。リリウス・ヌドリーナが1回戦に勝利したからだ。
「チンチン」あちこちでワインによる乾杯がおこなわれている。
 祝っているのは前室の人間だけではない。応接室でも同じことだった。
 扉の前には黒スーツの男が2名。一番豪華なソファーには、後ろに秘書らしき女性を立たせている黒スーツの男が1名。机を挟んで、白スーツの男と、灰色スーツの男が座る。他には3名のラウンジガールが、彼らの手を拭いたり、空のグラスを新しくしたりしている。
 前室の小物たちとは違い、この部屋の人間たちには全員威厳がある。リリウス・ヌドリーナの圧勝だというのに一人も騒がない。
 ただ、嬉しいことは当然だ。試合終了と同時に、揃ってグラスに入った赤ワインを飲み干した。
「まったく。いったい誰が、あの坊主どもが主役だ、などという冗談を言ったのだ?」黒スーツの白人は肩をすくめる。一番偉そうだ。精力的にもみえる。背は低く、元々のスタイルも良くないが、太ってはいない。節制をしている。30歳だというのに頭頂部が薄く、顎がゴツい。鼻筋は通っており、眉毛と目の間には隙間がない。小さな体に強い意志が密集しているようだ。アルフレッド・V・デュポン。科学者として有名なフランス人だ。そして13血流のひとつ、デュポン家の一族でもある。血筋としては総帥の孫にあたる。
「奴らはしょせん養分。主役は我々リリウス・ヌドリーナだということが、これでおわかりでしょう」灰色スーツの眼鏡をかけた白人が、当然という顔をする。白髪。眉間にシワを寄せているが、これでも喜んでいる。中肉中背。年齢は49歳。この部屋では一番歳をとっている。名はアルトゥーロ・ラブリオラ。今回はリリウス・ヌドリーナの相談役の一人としてやってきている。だが、優秀な人間にはたくさんの肩書があるものだ。彼もイタリアの下級議員であり、イタリア大東社という、フリーメインリーの中でも歴史ある組織の幹部でもあった。
「ありがとうごさいます」ラブリオラにたいし、白いスーツの青年が微笑んだ。身長は180センチを少し超えているくらい。筋肉が多く、脂肪が少ないボクサー体型だ。オールバックの金髪碧眼。顔も整っており、社交的だということが一眼でわかる。笑顔ひとつとってみてもハリウッドスターのようだ。白いスーツがよく似合っている。28歳。アルフレッド・デュポンと近しい年齢でも、同じ白人とは思えない外見だ。リリウス・ヌドリーナのカポ・バストーネ、名をマルコ・リリウスという。
「ふふふ。遺伝子工学と錬金術が高度にハイブリッドされた素晴らしい研究成果だな」アルフレッド・デュポンはご満悦だ。
「ええ。初めて実戦を見ましたが、タンザとビンゴの性能は素晴らしいですね」白衣を着た女性、アントワネット・ラヴォアジェが相槌を打った。年齢は60歳を超えている。だが細く、身長もそれなりにあるので、そこまで年齢を感じさせない。強いていえば、口元のほうれい線くらいだろうか。金髪をお団子にして後ろにまとめ、メガネをかけている。アルフレッドの後ろに立っているが、秘書ではない。歴とした錬金術師だ。ドリームメーカー・ランクA。デュポン家の新たな事業の軸の一つとして研究されている汎用型錬金術実用プロジェクトの発案者。主任も兼任している。
 彼女は大きな発明をした。そもそもファンタジーという魔法具は、錬金術師でなければ使用ができない。ところが、アントワネットが開発したファンタジーは、誰にでも使用できるところが画期的な魔宝具だ。ファンタジーを示すランクはGまでしかないが、新しいのでHランクと名付けている。
 今回、リリウス・ヌドリーナがザ・ゲームに出場した理由は、真言立川流に喧嘩を売られたからではない。Hランク・ホープ・ファンタジーの実戦実験と、客へのお披露目のためだ。
 1回戦のタンザとビンゴは、このH2ファンタジーを使用して勝利した。狙い通り、宣伝効果は絶大だった。階下にいるデュポン家の営業担当者のもとに、何人もの潜在顧客が資料をもらいに集まっている。
ーーこの試合を組むのはなかなか骨の折れる作業だったのだ。このくらいの成果がなくては、な。
 マルコはマジックミラーを通して潜在顧客の数を数えた。
ーーリリウス・ヌドリーナの2回戦での勝利も間違いない。そもそも私たちは、そういう次元でこのゲームに参加しているわけではない。
 アルフレッドは会話しながら、この後どのようにして販路を広げるか、そして研究の方向性についてなど、将来のデュポン家の繁栄について考えていた。
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