第202話 代表 Representative

文字数 1,956文字

「代表者は決まりましたでしょうか?」クリケットは二チームに声を掛ける。 
「待て」タンザはクリケットに言い放った後、ステージの反対側にいるダビデ王の騎士団に向かって、大声で呼びかけた。
「こっちは俺が出る! そっちはエスゼロ。お前が出ろ!!
ーーアタピ?
 返却された賢者の石に夢中だったサオリは、顔を上げて自分を指差した。タンザは不敵な顔をして、うなづいた。
「待て。リーダーは私だ。私が出るに決まっているだろう」アイゼンは、痛む体をおさえて立ち上がった。それだけで激痛が走る。
「なら、それでもいい。だがエスゼロ。ひとつだけ言っておく。もしお前が出ないのなら、俺は、ボルの首にネクタイをかける」
「出る」躊躇なく言い切り、サオリは華麗に、車から飛び降りた。
「エスゼロ」
「だいじょぶ」心配するアイゼンに、サオリは、手に持っていた漆黒の宝石を突き出して見せた。サオリの賢者の石、スカイだ。黒い夜空に、星が煌めいているような色をしている。
 サオリの自信に満ちた顔。
ーーこれは……。
 気づいたアイゼンは、サオリに言った。
「MAはできる?」
「ニャー!!」サオリは大きく叫んだ。
 体全体をオーラが包む。2ヶ月間みっちりと訓練していた成果だ。久しぶりだというのに何の淀みもなく、サオリは、モード・アルキメストを発動させた。同時に、クマオポケットから、プットーが飛び出してくる。
「サオリ。Eランクに上がったよ! おめ!!
「テンキュー」サオリは、プットーにお礼を言った。
 錬金術師なら当然見える、オーラやプットー。だが、この一連の行動を、タンザは見ることができない。
 アイゼンは考えた。
ーーMAができるなら怪我はしない。だったら……。
 アイゼンは決断して、タンザを見た。
「わかった。こちらの代表は、エスゼロにするわ」
 タンザはニヤリと笑った。
「それでいい。こちらは俺が出る」
 クリケットはタンザの言葉にうなづき、マイクスタンドを両手で抱えた。
「わかりました! それでは、代表選手が決定いたしました! リリウス・ヌドリーナは、タンザ・ドゥルベッコ。ダビデ王の騎士団は、エスゼロです! 天下分け目のこの一戦! いったい、どちらにファンファーレは鳴り響くのでしょうか!」
 クリケットの言葉が終わると同時に、シンデレラ城の前にある巨大スクリーンに、映像が映し出される。代表選手に対する応援が鳴り止まない、ワイアヌエヌエ・カジノの客たちの姿だ。
「エスゼロー!」
「タンザー!!
 声援の量は同じくらい、いや、同情もあるのだろう。やや、サオリの方が大きい。客の声援で、東京ディズニーランドはにわかに活気付く。
ーー他人の意見はどうでもいい。ただ、自分がやるだけ。
 そう思っているサオリでも、この大声援には心を動かされた。
ーーわ。でも、やる気出る。
 これが人間の本能なのだろう。タンザも同様に昂っている。
 サオリとタンザはステージに上がり、互いに握手と視線を交わした。
「いいか。もしお前が勝ったら、俺はボルを殺さねー。だが、負けたら殺す。これは、イタリアン・ジョークじゃねーからな」
 タンザは、5倍の大きさはある顔を近づけた。サオリは、視線を逸らさず、身も引かず、真剣な顔でうなづく。
「こうでもしなきゃ、てめぇは真面目に戦おうとしねーだろ? こっちは本気で戦ってたんだ。本気だったから負けても悔いはなかった。だが、てめぇが小さな優しさや甘え心を出したせいで、これまでの真剣だった戦いが全て台無しになっちまった。まるで、繊細に作られたピザの上に生クリームをぶちまけるかのように、な。次やったら、ボルだけじゃねー。てめぇもぶち殺す」
「ごちゃごちゃうるせー!」アカピルが吠える。
「豚がピーチク囀るな!」キーピルも口汚く罵り返す。
「オインク以外は、言っちゃ、ダメー!!」シロピルもノリノリだ。
「わかった。本気でやる」サオリも、再度うなづいた。
 もちろんタンザは、サオリが自分に勝てるはずがない、と思っている。物理的に考えれば、どう考えても無理だからだ。ただ、カトゥーの娘の成長を堪能した後、最後には、勝ちを譲ってやるつもりだ。四回戦のアイゼンとギンジロウとの戦いで、すでにタンザは、負けを受け入れている。
ーーもう、勝敗は決している。俺たちは負けた。延長戦はルール上参加するが、これで勝つのは戦士にとって、ただの恥辱だ。
 タンザの心は落ち着いている。
ーーカトゥーは、犯罪者の自分に生きがいを与えてくれた。サオリには、ボルサリーノの命と心を救ってもらった。2代にわたって貸しを作りたくねぇ。ここで勝利を返却し、全てを精算する。
 そんな心算だった。
ーーそれにしても……随分と自信のある顔をしてやがる。
 タンザは、なぜサオリがそんな表情をしているのかが理解できなかった。
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