第201話 選択 Selection

文字数 1,637文字

 選手たちを乗せた4台のクラシックカーは、シンデレラ城に到着し、横1列に並んだ。目の前には、ダンスやショーをおこなうためのステージ、後方には、巨大スクリーンがかかっている。
 ステージ上には、クリケットがいた。中央で、スタンドマイクの前に立っている。緊張しているようだ。
「みなさん! キャッチ・ザ・ミッキーは、規定により、これから、1対1による代表戦へと突入いたします! 現在、時刻は6時50分。これから代表選手を3分で決め、58分には舞台の上へと進んでいただき、6時60分から、試合開始といたします。試合形式は、純粋な肉弾戦。武器以外、全ての攻撃が可能です。ルールは、ギブアップかノックアウト、ステージから転落させた方が、勝利者となります。試合は、6時66分に終了、後は、判定となります。リリウス・ヌドリーナ。ダビデ王の騎士団。ともに、代表者をお選びください!」
「やはり代表戦とはいえ、私たちは参加できないようですねぇ。オーポポポポポ」オポポニーチェは、敵チームのカンショウに、和やかな口調で話しかけていた。
「そのようだな」カンショウも話に付き合う。もう、試合とは関係ない2チームだ。敵という意識がなければ、苛立ちはない。
ーーこうなると、誰がいいのだろう?
 アイゼンは、動かない体で考えた。自分のケガはかなり深い。もちろん、こうしなければ勝てない試合だった。悔いはない。作戦通りだ。
 優勝すれば、リアルカディアへと戻れる。戻れれば、ケガを早く治すファンタジー、妖精の包帯がある。どんなに重症だろうと、1週間もあれば回復する。
 だが、これは、最終戦だからこそとった作戦だ。代表者による延長戦については、考えてもいなかった。そもそも、勝つか負けるか、どちらかしかないと思っていた。
ーー自分は動けない。となるとギンか?
 だが、ギンジロウも、タンザのスーパー・ヴェローチェを食らっている。ボルサリーノ相手ならともかく、無傷のタンザや軽傷のビンゴと戦うには厳しいところだ。
ーーとなると……。
 アイゼンは、クマオとヒソヒソ話をしているサオリを見た。
ーーいやいや。
 リリウス・ヌドリーナからは、タンザかビンゴが出てくるだろう。どちらにせよ、素手で勝てる可能性があるのは、ギンジロウくらいなものだ。しかも、無傷だったとしても、勝率は10パーセントもない。
 アイゼンなら、小狡く動いて時間切れを狙い、判定で勝利を狙うこともできた。が、今の重傷をおった体では勝ち目がない。
 サオリは軽すぎるので、あらゆる攻撃がタンザとビンゴには通じない。無傷でも、全く相手にならない。
ーーボルサリーノが出場する可能性にかけて、沙織を出すか? それとも、どうせ負けるなら、犠牲を減らすために自分が出て、すぐにステージから降りればいいか?
 勝ち目がまるでない。アイゼンは、負けを覚悟していた。

 タンザは、シンデレラ城に来るまでの車中、引き分けになった詳細を、ボルサリーノに問いただしていた。
「エスゼロが自爆した時、何で、てめぇも自爆したんだ?」
「お、お嬢ちゃんが、アッシのために、負けてくれようと、してたからで、ヤンス……」
「あ? エスゼロが、てめえの命のために試合を降りた? 本気で、そんな舐めたことを言ってんのか?」
「そうとしか、考えられないで。ヤンス……」
ーーんーなはずねーだろ。家族や彼氏でもあるめーし。
 生き馬の目を抜くマフィアの世界に生きているタンザだ。そんな価値観は信じられない。言おうとして、タンザは止まった。
 ボルサリーノの目が、今までと違う。恐れを振り払った男の目をしている。逆らった結果、死んでもいい。決意をはらんだ男の目つきだ。タンザは、自分がカトゥーに会った時のことを思い出した。
ーーこの目は……嘘を言ってねぇ……。
 タンザは、ボルサリーノの言を、信じざるを得なかった。
ーー……ちっ。親娘ともども、俺を熱くさせてくれやがるぜ。
 タンザは心の苛立ちが膨れ上がり、車のドアを強く蹴り飛ばした。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み