第25話 表彰式(1) Ceremony
文字数 1,287文字
「それでは、表彰式をはじめます」
水色のスーツを着た、背の高い男がマイクで宣言する。年齢は60代。ピンと伸びた背筋が美しい。白髪の混じった髪は、オールバックで撫でつけられている。大会審査委員長の山下五平だ。
試合の時とは違う、ほのぼのとした雰囲気で表彰式が始まった。
全ての試合が終わると、大抵の大会では、観客の半分は帰っていく。だが、今大会ではほとんど帰らない。アイゼンとミサオの素顔が見られるからだ。むしろ、試合の時より興奮しているファンもいる。
試合場には全選手が集まっている。家族と一緒に写真を撮る選手も見受けられる。和気藹々だ。
混乱を避けるため、アイゼンとミサオは、この段階で初めて、表彰式がおこなわれているアリーナに入場した。
客席から一斉に、応援する声が聞こえる。
だが、表彰式中だ。すぐに失礼だと思う人数が増えていく。
声援は小さな拍手となり、やがて静かになった。
さすがは日本人だ。
表彰式は、つつがなく進行された。
「第三位。丹下十三」
黒い剣道着。大柄。柔道選手のような体格の30代。四角い頭は丸刈りだ。鼻が丸い。昔ながらの男、といった風情を醸し出している。ヤマシタに呼ばれたジュウゾウは、子供のように勢いよく手をあげた。
「はいっ!」
可愛らしく大きな返事。外見に似合わない。観客席から笑いがおこる。
表彰台に上がったジュウゾウは、得意そうに丸鼻をこすった。豪快な体格に似合わず、気さくで正直そうだ。アナウンサーのアンザイが、ジュウゾウにマイクを向ける。
「丹下選手。見事、世界三位です。おめでとうございます。感想をお聞かせください」
「あいがとごわす。アイちゃんに負けたときは、アイドルみたいなオナゴに負けてしまうとは、薩摩武士としての面目が立ちもはん、と思ったばってん、アイちゃんが桐生に勝ってくれたおかげで三位にさせてもらえて、今では感謝しちょります。アイちゃん、あいがと」
ジュウゾウは、アイゼンに向かって大きく手を振った。アイゼンも負けじと、大きく手を振り返す。観客は大爆笑だ。
アンザイは続けて質問した。
「さて、藤原選手、戦ってみて、どうお感じになりましたか?」
「可愛かと」
またも観客から笑いが起きた。ジュウゾウは真顔に戻って続けた。
「いや。おいも無敗のアイドル剣士に、本物の薩摩示現流の実力を叩き込んじゃろと意気込んじょったが、とにかく竹刀が当たりもはん。あれは凄かオナゴにごわす」
「再戦したいですか?」
「もちろんでごわす」
「次は勝てますか?」
「そうじゃなぁ。作戦を考えたいが、おいは細かい剣道が苦手でごわす。さらに素早く竹刀を振れるように精進しようとは思うちょりますが、とにかく今回はおいどんの負け。アイちゃんの勝ち。そいだけじゃ。ただ、お祝いするのみでごわす」
ジュウゾウは、潔く負けを認めた。
「現代に生きる武士の行持。心地よい一陣の風が吹きました。丹下選手。ありがとうございました」
「あいがとごわす」
観客から温かい拍手が飛ぶ。ジュウゾウは、手を挙げて応えた。
拍手が鎮まるのを待ち、ヤマシタが次の表彰者を呼び出す。
「準優勝。桐生操」
水色のスーツを着た、背の高い男がマイクで宣言する。年齢は60代。ピンと伸びた背筋が美しい。白髪の混じった髪は、オールバックで撫でつけられている。大会審査委員長の山下五平だ。
試合の時とは違う、ほのぼのとした雰囲気で表彰式が始まった。
全ての試合が終わると、大抵の大会では、観客の半分は帰っていく。だが、今大会ではほとんど帰らない。アイゼンとミサオの素顔が見られるからだ。むしろ、試合の時より興奮しているファンもいる。
試合場には全選手が集まっている。家族と一緒に写真を撮る選手も見受けられる。和気藹々だ。
混乱を避けるため、アイゼンとミサオは、この段階で初めて、表彰式がおこなわれているアリーナに入場した。
客席から一斉に、応援する声が聞こえる。
だが、表彰式中だ。すぐに失礼だと思う人数が増えていく。
声援は小さな拍手となり、やがて静かになった。
さすがは日本人だ。
表彰式は、つつがなく進行された。
「第三位。丹下十三」
黒い剣道着。大柄。柔道選手のような体格の30代。四角い頭は丸刈りだ。鼻が丸い。昔ながらの男、といった風情を醸し出している。ヤマシタに呼ばれたジュウゾウは、子供のように勢いよく手をあげた。
「はいっ!」
可愛らしく大きな返事。外見に似合わない。観客席から笑いがおこる。
表彰台に上がったジュウゾウは、得意そうに丸鼻をこすった。豪快な体格に似合わず、気さくで正直そうだ。アナウンサーのアンザイが、ジュウゾウにマイクを向ける。
「丹下選手。見事、世界三位です。おめでとうございます。感想をお聞かせください」
「あいがとごわす。アイちゃんに負けたときは、アイドルみたいなオナゴに負けてしまうとは、薩摩武士としての面目が立ちもはん、と思ったばってん、アイちゃんが桐生に勝ってくれたおかげで三位にさせてもらえて、今では感謝しちょります。アイちゃん、あいがと」
ジュウゾウは、アイゼンに向かって大きく手を振った。アイゼンも負けじと、大きく手を振り返す。観客は大爆笑だ。
アンザイは続けて質問した。
「さて、藤原選手、戦ってみて、どうお感じになりましたか?」
「可愛かと」
またも観客から笑いが起きた。ジュウゾウは真顔に戻って続けた。
「いや。おいも無敗のアイドル剣士に、本物の薩摩示現流の実力を叩き込んじゃろと意気込んじょったが、とにかく竹刀が当たりもはん。あれは凄かオナゴにごわす」
「再戦したいですか?」
「もちろんでごわす」
「次は勝てますか?」
「そうじゃなぁ。作戦を考えたいが、おいは細かい剣道が苦手でごわす。さらに素早く竹刀を振れるように精進しようとは思うちょりますが、とにかく今回はおいどんの負け。アイちゃんの勝ち。そいだけじゃ。ただ、お祝いするのみでごわす」
ジュウゾウは、潔く負けを認めた。
「現代に生きる武士の行持。心地よい一陣の風が吹きました。丹下選手。ありがとうございました」
「あいがとごわす」
観客から温かい拍手が飛ぶ。ジュウゾウは、手を挙げて応えた。
拍手が鎮まるのを待ち、ヤマシタが次の表彰者を呼び出す。
「準優勝。桐生操」