第103話 2回戦(17) Second Round

文字数 1,426文字

 タンザは、偉丈夫である自分が、昔懐かしい思い出話をしてしまったことが恥ずかしくなった。照れ隠しかなにかは分からない。かゆくなった訳でもないのにお尻に手を伸ばす。
 むにゅ。
 タンザは、自分のお尻の代わりに、なにかお尻ではないものを掴んだ。細い割に重い。
ーーなんだ?
 不思議に思いながら、自分の掴んだものを引っ張り上げてみる。それは、しゃっくりをして、泣きっ面を我慢している子供だった。
 タンザは驚いた。
 たった今話題にしていたサオリが、自分の手によって釣りあげられている。
 座禅を組んでいたアイゼンも、サオリがタンザに釣りあげられていることに驚きを隠せなかった。
ーーえ? 沙織? なんであそこにいるの? もしかして、タンザのF?
 だが、自分の疑問よりも、サオリの鈴を守らなくてはならない。
ーー後1分。タンザに摑まれていても、時間さえ過ぎれば、沙織の3点は確保できる!
 考えるよりも早く、アイゼンは、タンザに向かって走りだしていた。
「59分経過。残り時間は1分だよー」間抜けな声のアナウンスがアトラクション内に響き渡る。
ーーブラザーが、今、話をしていたエスゼロを背中から出した。
 青天の霹靂。ビンゴも驚いた。
 だが、アイゼンが走ってくる。驚いている余裕はない。
ーー迎え撃つ!
 すぐに立ち上がり、壁となって、アイゼンの前で大きく手を広げる。
 アイゼンは勢いを止めたくない。このままビンゴの横をすり抜けようとする。
 だが、ビンゴが手を伸ばすと、抜ける隙間が見つからない。もし強引に抜けようとしても、ここで怪我をしてしまうと、この後の戦いに響く。沙織の鈴の3点のために、賭けはできない。
 アイゼンは、タンザとビンゴの立ち位置を見て、瞬時に作戦を思いついた。
ーーこれは、逆にチャンス! 沙織が足を伸ばせば、ビンゴの尻尾を奪える位置にある! しかも、私が大声を出せば、ビンゴは沙織にも注意が向くはず。一瞬の隙ができれば、私ならビンゴを抜いて沙織を助けることができる。どちらが成功してもいい。
「沙織! ビンゴの尻尾!!」剣道仕込みのよく通る声。
 聞こえたはずだ。だが、サオリはだらりとタンザに吊り上げられたまま動かなかった。そして、余程タンザにたいして信頼感があるのだろう。ビンゴも、アイゼンに対し、ピクリとも集中力を切らさない。
 作戦は破綻した。
ーーままよ。たかが1分。私なら絶対に、沙織の尻尾を取られないように攻撃しながら、ビンゴの攻撃から逃げきることが出来る! まずは、この鉄柵を利用する!!
 アイゼンは、右へ左へと移動し、ビンゴを翻弄しながら、サオリの救出に向かった。目的は時間稼ぎだ。
 ビンゴの平手は鋭い。だが、スーパー・ヴェローチェを警戒しているアイゼンだ。間合いも分かっている。安全な距離設定を保っている。かすりもしない。
 次の平手で間合いに入り、ビンゴの右ひじを打ち上げる。
 その勢いのまま、足の隙間から、ビンゴの後ろへ抜けようとする。
ーーそうはさせねぇ。
 ビンゴの膝蹴り。
 アイゼンが避けた。後ろの鉄柵に当たる。ビンゴの自爆を狙ったのだ。
 だが、力が凄い。鉄柵がひしゃげた。
ーー予想外の力!
 アイゼンが攻撃を受けないためには、一度勢いを殺し、後方に下がるより道はなかった。
 もう、自らの手でサオリを助けることはできない。あとはサオリにかかっている。
「エスゼロ! 鈴を奪られるな!!」下がった後、アイゼンはもう一度叫び、再びビンゴへと向かっていった。
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