第38話 選考会議(2) Selection Meeting
文字数 1,478文字
ーー誰だ?
この建物内は、選考委員以外の立ち入りが禁止となっている。不正や情報漏洩を防ぐためだ。とはいえ、通信機器の持ち込みも許されていないので、何か問題があった時には、こうして扉を叩く以外に方法はない。
外には護衛が見張っている。その護衛がここまで通しているのだ。さすがに何もない訳ではないだろう。
ーー選考中だというのに。まさかこの会議を、軽々しく乱入していいようなものだと勘違いしているわけではあるまいな。
クーは、部屋についている防音装置のスイッチを切った。
「どうした?」会議を阻害されたクーは、冷たい語調でたずねた。
「はい。緊急事態です」クーの家で20年以上働いている下男の声だ。息が上がっていることが、扉越しでもよく分かる。よほど急いで来たようだ。
「言ってみろ」
「いえ。内密のお話で……」やはり聞き覚えのある声だ。信用しても良さそうだ。
ーーくだらない話だったら、タダじゃおかねーぞ。
「入れ」クーは不承不承、入室の許可を与えた。
選考委員から、屈強な2人が立ち上がる。クーの護衛をするためだ。
他の選考委員は、全員が拳銃を握りしめる。
扉を開ける。
「し、失礼します」弱そうな男だ。
選考委員の1人が拳銃を突きつける。もう何もできない。持ち物検査をされる。
扉が閉まった後、クーは再び、防音装置のスイッチを入れた。
「話してみろ」クーは緊張している下男に、横柄な態度をとった。
「クー様宛てに、お手紙が届いております」
ーー手紙?
心当たりがない。
「誰からだ?」
「ハリー・W・バンディ様からです」
ーーバンディ?
会議室がざわつく。
「そりゃ……、ずいぶん大物からの手紙だな」
ハリー・バンディ。イルミナティ13血流であるバンディ家で、裏の仕事を一手に引き受けている人物だ。
手紙を受け取る。
ーーとはいえ、もう締め切りは過ぎている。いくら13血流だからといって、何でも思い通りになると思ってもらっちゃあ、ザ・ゲーム委員会の威厳が保てない。
クーは手紙を見た。封蝋が押してある。
ーーあっ! この封蝋は!!
クーは、封蝋の紋章に驚いた。
ーー黄金の薔薇に十字架……。ゴールデン・ローゼン・クロイツ? GRC? 黄金薔薇十字団? バカな! 彼らは全員Bランク以上だ。参加資格がない。しかも、こんなドクロなんているはずがない。だが……。
考えても仕方がない。急いで封を開く。
ーーふむぅ。なるほど。
クーは、読んで納得した。
「どんな内容でした?」他の選考委員がたずねる。
「読んでみろ」クーは手紙を渡した。
選考委員たちが回し読みをしている間、クーは考える。
下男は、他の選考委員によって追い出された。
全員が読み終わったようだ。
「どうだ?」クーは、会議室を見回した。
「クー様。これはルール違反では?」
「いや、」
そんなことは分かりきっている。だが、もしも黄金薔薇十字団が参加したら……。これほど盛り上がる興業は他にない。
ーーこのメンバーに、あの競技を組み合わせたら……。面白い! 面白すぎるぞ!!
完全に絵が見えた。そして、他の選考委員たちの戸惑いは、視界に見えなくなる。
クーは、机を叩いて立ち上がった。
「最後の1チームはこれにしよう! 理不尽は後でなんとかする」
「クー様!」
クーは、考えれば考えるほど、試合の盛り上がりを確信できた。
逃げる女子高生。
追いかける錬金術師。
争いあうマフィアと坊主。
観客たちの嗜虐性を満たしてやまない、魅力的なカードが出来上がった。
ーー今度の興行。絶対に成功するぞ。
試合当日のことを想像すると、クーはニヤつきが止まらなくなった。
この建物内は、選考委員以外の立ち入りが禁止となっている。不正や情報漏洩を防ぐためだ。とはいえ、通信機器の持ち込みも許されていないので、何か問題があった時には、こうして扉を叩く以外に方法はない。
外には護衛が見張っている。その護衛がここまで通しているのだ。さすがに何もない訳ではないだろう。
ーー選考中だというのに。まさかこの会議を、軽々しく乱入していいようなものだと勘違いしているわけではあるまいな。
クーは、部屋についている防音装置のスイッチを切った。
「どうした?」会議を阻害されたクーは、冷たい語調でたずねた。
「はい。緊急事態です」クーの家で20年以上働いている下男の声だ。息が上がっていることが、扉越しでもよく分かる。よほど急いで来たようだ。
「言ってみろ」
「いえ。内密のお話で……」やはり聞き覚えのある声だ。信用しても良さそうだ。
ーーくだらない話だったら、タダじゃおかねーぞ。
「入れ」クーは不承不承、入室の許可を与えた。
選考委員から、屈強な2人が立ち上がる。クーの護衛をするためだ。
他の選考委員は、全員が拳銃を握りしめる。
扉を開ける。
「し、失礼します」弱そうな男だ。
選考委員の1人が拳銃を突きつける。もう何もできない。持ち物検査をされる。
扉が閉まった後、クーは再び、防音装置のスイッチを入れた。
「話してみろ」クーは緊張している下男に、横柄な態度をとった。
「クー様宛てに、お手紙が届いております」
ーー手紙?
心当たりがない。
「誰からだ?」
「ハリー・W・バンディ様からです」
ーーバンディ?
会議室がざわつく。
「そりゃ……、ずいぶん大物からの手紙だな」
ハリー・バンディ。イルミナティ13血流であるバンディ家で、裏の仕事を一手に引き受けている人物だ。
手紙を受け取る。
ーーとはいえ、もう締め切りは過ぎている。いくら13血流だからといって、何でも思い通りになると思ってもらっちゃあ、ザ・ゲーム委員会の威厳が保てない。
クーは手紙を見た。封蝋が押してある。
ーーあっ! この封蝋は!!
クーは、封蝋の紋章に驚いた。
ーー黄金の薔薇に十字架……。ゴールデン・ローゼン・クロイツ? GRC? 黄金薔薇十字団? バカな! 彼らは全員Bランク以上だ。参加資格がない。しかも、こんなドクロなんているはずがない。だが……。
考えても仕方がない。急いで封を開く。
ーーふむぅ。なるほど。
クーは、読んで納得した。
「どんな内容でした?」他の選考委員がたずねる。
「読んでみろ」クーは手紙を渡した。
選考委員たちが回し読みをしている間、クーは考える。
下男は、他の選考委員によって追い出された。
全員が読み終わったようだ。
「どうだ?」クーは、会議室を見回した。
「クー様。これはルール違反では?」
「いや、」
そんなことは分かりきっている。だが、もしも黄金薔薇十字団が参加したら……。これほど盛り上がる興業は他にない。
ーーこのメンバーに、あの競技を組み合わせたら……。面白い! 面白すぎるぞ!!
完全に絵が見えた。そして、他の選考委員たちの戸惑いは、視界に見えなくなる。
クーは、机を叩いて立ち上がった。
「最後の1チームはこれにしよう! 理不尽は後でなんとかする」
「クー様!」
クーは、考えれば考えるほど、試合の盛り上がりを確信できた。
逃げる女子高生。
追いかける錬金術師。
争いあうマフィアと坊主。
観客たちの嗜虐性を満たしてやまない、魅力的なカードが出来上がった。
ーー今度の興行。絶対に成功するぞ。
試合当日のことを想像すると、クーはニヤつきが止まらなくなった。