第173話 4回戦(16) Final Round

文字数 2,346文字

 巨大スクリーンは分割され、それぞれの猫からの映像を映している。
 タンザとアイゼン。
 ビンゴ。
 サオリ。
 ボルサリーノ。
 陽気な海賊が煽る暗い世界に、緊張感を漂わせたバトーが漂い進む。
 第7エリアの襲撃された街ステージも終わりに近づく。左右に三階建ての建物が並ぶ。中は炎で充満している。火をかけた実行犯たちが嬉しそうだ。略奪され尽くした宝物は小舟に集められている。目の前にかかっている橋の上では、酒を飲み、歌っている海賊もいる。
「待ってたぜ」橋の上の海賊が、タンザとアイゼンに声をかけた。影から現れたのはギンジロウだ。若さは残っているものの、屈強な肉体が炎に照らされて猛々しい。もしアイゼンたちが負けたというアナウンスがあった時には、ここで黄金薔薇十字団にワナを仕掛ける作戦だった。
「舞台はここ。安心して。罠は仕掛けてない」アイゼンは身軽に上陸した。タンザも後に続く。
 まるでコロシアムのように殺風景。炎上しているおかげでカリブの海賊内では1番明るい。立体的な攻撃場所や隠れやすい場所もあるが、橋の上などは広く使うこともできそうだ。正々堂々と戦える。まさに決定戦にふさわしい舞台だ。
「気に入った」
「でしょ?」アイゼンは不敵に笑った。
 すぐにビンゴが到着する。こうなると左側の岸だけでは狭い。タンザはバトーを踏み台にして右岸へと移動し、ビンゴも呼び寄せた。手を取り引っ張る。
「兄弟」ビンゴは嬉しそうだ。挨拶を交わした後は、獲物を物色するかのようにアイゼンとギンジロウを睨んだ。後はサオリとボルサリーノ。どちらかがフォーの鈴を持ってやってくる。
 ところが、2人が来るよりも早く、意外なアナウンスが場内に流れた。
「ネコチーム。黄金薔薇十字団。フォー。不慮の事故により失格となります」
ーーえっ?
 4人は同時に顔を見合わせた。
 微妙な空気。サオリとボルサリーノの状況も分からない。もう戦闘をおこなった方がいいのか。2人を待った方がいいのか。それとも、一度戻って状況を確認した方がいいのか。
 1分ほどそれぞれのチームで考えていたが問題ない。結論を出すよりも早く、当事者がバトーに乗ってやってきた。サオリだ。
「エスゼロ!」アイゼンが呼ぶ。
 サオリは放心状態から立ち戻った。
「あ! アイちゃ……」
ーーラーガ・ラージャだった。
 言いかけて止める。急いでバトーから跳び降り、アイゼンの元へと近づく。タンザとビンゴも橋を渡ってきた。全員が状況を知りたい。アイゼンとしても、どうせボルサリーノが来たら情報はバレると思っている。隠す必要もない。
「フォーはどうしたの?」みんなを代表してアイゼンが尋ねた。
「オポポノコに……」後はジェスチャーだ。早く伝えたかったのに、サオリは言いづらかった。他人が殺されたという報告は心が痛い。
ーー伝わったよ。怖かったね。
 アイゼンはサオリを抱きしめた。ギンジロウは、サオリが悲しそうな顔をしていることが悲しかった。だが、タンザとビンゴはそうでもない。失敗した者が殺されることはよくあることだ。ましてや相手は人間ではなくホムンクルス。人権などない。2人のいた遺伝子研究所では、反乱や奇形により処分されてきた兄弟たちをたくさん見てきた。サオリたちとは常識が全く違う。それよりも気になっていることがある。
「ボルはどうした?」
 サオリは青ざめた唇で答えた。
「フォーさんの首持ってた……」
ーー首を?
 尚も訊ねようとした時、ようやくボルサリーノがバトーに乗ってやってきた。少しは絞ったものの、水に濡れてますます貧弱な体になっている。
ーーん? アッシのこと待ってるでヤンスか?
 ボルサリーノは大きく手を振り、少し遠い距離から地面に跳び移った。タンザとビンゴを待たせていることへの焦りもあったが、それよりもサオリに伝えなければならないことがある。
「遅れて申し訳ないでヤンス」タンザとビンゴに謝った後、アイゼンに抱きしめられているサオリを見た。サオリもボルサリーノを見ている。
「お嬢ちゃん。オポポニーチェから伝言があるでヤンス」
ーーアタピに?
 サオリは自分を指さした。
「うん。オポポニーチェはフォーを殺したように見えたけど、実は殺していないって。後で教えるから、今は試合に神経を集中しろ、って言ってたでヤンス」
ーーえ? フォーさん死んでない?
 言われてみるとオポポニーチェは幻覚を使用する。先ほどの事件も幻覚だったのかもしれない。
ーーだったら……。
 サオリの心は先ほどよりも落ち着きを取り戻した。
ーーふう。約束は果たした。これでアッシもオポポニーチェに殺されないでやんす。
 ボルサリーノは役目を終えて、水に濡れている金髪リーゼントを絞りはじめた。
「これで準備は整ったな」
「そうね」アイゼンはタンザに同意した。
「いつから戦う?」
「お互い橋の両側に分かれて、2分後に戦闘開始というのはどう?」アイゼンは、本当は1分にしようかと思ったが、サオリが呼吸を整えているので時間に余裕をみた。
「いいだろう。合図は誰が出す?」
「ジョニー・デップさんに出してもらいたいですね。お願いできますか?」アイゼンは大声で上に向けて言った。英語で話しているのでジョニー・デップにも聞こえているはずだ。
「いいだろう」間髪入れずにジョニー・デップは了承した。アイゼンのプロファイリング通り、ジョニー・デップもまた芸術を重んじる男だ。委員会のルールがどうであろうが、客が盛り上がる演出のためならば独断でも決定する。
 タンザとビンゴは不敵な笑みでアイゼン、ギンジロウと視線を合わせ、橋の反対側へと歩いていった。ボルサリーノも後に続く。
 登場人物は全て揃った。
 ダビデ王の騎士団。
 リリウス・ヌドリーナ。
 いよいよ2つのチームが雌雄を決する。
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