第177話 4回戦(20) Final Round

文字数 1,308文字

 始まった瞬間に激突すると思われた2組。だが、展開は予想とは違った。両者はジリジリと、注意深く距離を詰めあう。
 先ほどまでのやる気に満ち溢れた臨戦態勢とは違う。もしもタンザとビンゴから攻撃を仕掛けようとしたら、それこそ本当にアイゼンとギンジロウは逃げていきそうだからだ。
 立体的な場所で追いかけっこをするには、タンザもビンゴも体重がありすぎる。1分も持たずに疲れてしまうだろう。ボルサリーノは身軽だが、攻撃力がなさすぎる。つまり、リリウス・ヌドリーナが有利に闘うには、橋の上のような広い場所で相手からの攻撃を待つしかない。故にこうして、距離を詰め合う闘いを強いられているのだ。
 あと少し近づけば必殺の間合い。
 否応なしに激突することができる。
 勝負は一瞬で決まる、かもしれない。
 何度も攻防が続く、かもしれない。
 だが、一瞬でもミスをすれば最後、次の一瞬は二度と訪れない。
 サドンデスとはまさにこのことだ。
 ボルサリーノは緊張に力が入る。
ーーアッシはまだまだ死にたくないでヤンス。もっと色んな世界を見たい。世界の酒を飲み、世界の女を抱きたい。なんとしても生を掴み取るでヤンス。
 自分とはレベルの違う戦い。スーパーマンとバットマンの間に取り残された一般庶民の気分。
ーーだ、大丈夫。今までだってピンチは何度もあった。それら全てを乗り越えてきたからこそ、今のアッシが生きてるんでヤンス。
 タンザの体は強い熱を帯びている。ボルサリーノは、自分の胴体よりも太いタンザの首に、両腕をギュッと巻きつけた。
「お前が怖がると細い腕が喉に食い込む。ネクタイをするにはまだ早い。リラックスしろ、ボル」
ーーコロンビアンネクタイのこと、覚えてたんでヤンスねー。
「す、すまないでヤンス」
 ボルサリーノは慌てて力を緩める。タンザは息苦しくなくなった。両手をゆっくりと持ち上げ、ボクサーのような戦闘スタイルに形を変える。隣ではビンゴが半身になり、右腕を異様に突き出した体勢をとる。タンザは対アイゼン用に素早さ重視、ビンゴは対ギンジロウ用に突撃阻止重視。それぞれが敵と対抗するために考えた構えだ。
 それに気づいたアイゼンがつぶやく。
「(コンビネーションNO.)5」アイゼンとギンジロウは位置を入れ替えた。
 タンザにとっては対戦相手を変えられるとめんどくさい。
ーー言葉で相手の位置を元に戻そう。
 タンザは馬鹿にしたような口調でアイゼンを挑発した。
「最終戦だぞ? 俺に雑魚をあてこんで大丈夫か?」ギンジロウにはイタリア語なのでニュアンスしか伝わらない。
「イノギンは日本最強の侍だよ」アイゼンはハッキリとした声でタンザに返した。今度は英語だ。意味が理解できる。ギンジロウは目が一段階開いたような、景色が明るくなったような気がした。
ーー俺はこんなにも愛染から信用されているのか! 屈辱と鬱憤を晴らそうとタンザの前に立ちはだかったが、そんなことはもうどうでもいい。ただ最強を証明したい。この信頼に報いるために!
「うおおおおおおっ」空手でいう息吹のようなものだ。ギンジロウは吠えた。
 プライドを取り戻す戦いを挑まんとする一匹の狼の叫び。
 時間は一気に動き出した。
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