第70話 1回戦(8) First Round

文字数 1,415文字

 屋根の上では、タンザとボルサリーノが、ジャクジョウを囲んでいた。
 オポポニーチェは、遠くから眺めているだけだ。上半身を真横に曲げる、お得意のポーズをとっている。
「よっと」ビンゴも屋根に登ってきた。
「へへ」大きな手で自分をはたき、スーツについた埃を払っている。
 タンザはジャクジョウから目を離さず、英語で、オポポニーチェとサオリに忠告する。
「これは俺たちの制裁だ。この試合は手を出さないでもらおうか」
「手を出したらどうします?」オポポニーチェがおどける。
「手を出したら?」タンザが太い声を出す。
「これはお願いではない。命令だ」
「出すなら出すでも、別に構わねーぜ」体勢を整え終えたビンゴが、オポポニーチェを好戦的な目でにらむ。
「おー、怖い怖い」オポポニーチェは両手をあげた後、不器用な動きで柱をよじ降りていった。
 次に、ビンゴはサオリを見た。破壊屋の目つきだ。
「こーぅえっ」アオピルが震えている。
 先ほどアイゼンと交渉していた時の姿を見ている。サオリももちろん、胸の前で両手を小さく振った。
 ビンゴは満足そうだ。再びジャクジョウを見る。
「なあ。この圧倒的な戦力差がわかるよな。今すぐ俺たちに逆らったことを謝り、これからのお前らの得点を俺らに差しだせ。そうすれば、お前に制裁を下すのをやめてやろう」
 ジャクジョウは少しうつむいた後、意志のある目でタンザを睨みつけた。
「拙僧は、真言立川流の正義を証明し、勝利するためだけにこの戦いに身を投じている! たとえ不利な状況にあるとはいえ、我が真言力を信じて戦うのみ」
「不利な状況、じゃねぇ」タンザは、わかってないなという顔をして言葉を続けた。
「詰んでいる状況、だ」
 途端に、タンザの体から圧倒的な気が流れる。気に流されるように、ジャクジョウの体が動く。
 爆発音。
 2メートル近いジャクジョウの体が、屋根の真ん中まで吹き飛ばされる。ジャクジョウは意識を失い、大の字になって倒れていた。
「SV」
 先ほどまでジャクジョウの立っていた場所には、タンザがポケットに手を入れたまま、片足をあげて立っている。
 ボルサリーノは、倒れているジャクジョウに近づき、急いで尻尾を奪った。
「27分30秒。ネズミチーム。真言立川流。寂乗。アウトー。ネズミチームの全滅により、1回戦は終了だ、ドーン! 勝者は、リリウス・ヌドリーナ。リリウス・ヌドリーナだ、ドーン!!」ドーマウスは、先ほどまで手に持っていたピストルを置いて、高らかにラッパを吹き鳴らした。
 屋根に梯子がかけられる。ジャクジョウが係員たちによって運ばれる。
ーーえ? 終わり? もう終わったの?
 完全に蚊帳の外に置かれたまま、あっさりと1回戦が終わってしまった。サオリは呆然として立ち尽くした。
 上機嫌のタンザがサオリの横を通る。サオリの頭に手を置き、軽く笑う。
 ビンゴも同じようにし、ちょっと高い段差から飛び降りるだけのように、屋根の下へと飛び降りた。
 最後にボルサリーノが、へこへことお辞儀を繰り返しながら横を通り、係員がかけた梯子を使って地面に降りる。
 リリウス・ヌドリーナと入れ替わるように、アイゼンとギンジロウが屋根に上がってきた。
ーーあれが勝者。アイちゃんですら何もできなかった、この試合の勝者。
 サオリは屋根の上に立ち、リリウス・ヌドリーナの自信ある背中を目で追いながら、この巨大な壁を乗り越えなくてはならないということにたいして身震いをした。
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