第84話 再会(3) Meeting Again

文字数 1,521文字

「エスゼロちゃん、武道館で泥棒を捕まえたでしょ?」
ーーそ。アタピ、捕まえた。
 サオリは自信を持ってうなづいた。
「あの時に盗まれた物がなんだったか、エスゼロちゃんは知ってるでヤンスか?」
「ハンドバッグ」
「の、中身でやんす」
「知らない」知っているはずがない。
「アレ、実は、アッシらが真言立川流に密売した商品でヤンス」
ーーえっ! 密売?
 目の前のお気楽な犯罪者の発言に、サオリは驚いた。
「マフィアなんだから、密売くらいするんじゃない?」ピョレットがこともなげに言う。
ーーそんなもんかー。
 言われてみると当然のような気もしてくる。ボルサリーノは気にせずに話しを続ける。
「あの時、盗まれただけだったら、泥棒を追跡して、人しれず東京湾に沈めたらそれで終わり。おそらく、この、ザ・ゲームには参戦していなかったと思いヤス。けど、ブツが警察に押収されちまいましてね……」ボルサリーノは大きな鼻をつまんだ。
「調べられて、日本の警察に、アッシらが売ったということがバレちまったんでヤンスよ」
「沈める?」サオリは、警察にバレた話よりも、東京湾に沈めるという言葉に引っかかった。
「ああ……。言葉のあやでヤンス」ボルサリーノは特に気にしていないようだ。
ーーこわー。
「おかげで今後、組織が日本で取引しようとすると、警察からにらまれるようになりヤンした」
ーーあらー。
「自業自得!」アカピルが憤慨している。
「ま、そこまではたまにあるトラブルでヤンス」ボルサリーノは、腕に止まった蚊を叩いた。
「問題は、こちらにはなんの落ち度もないのに、真言立川流が賠償金も大麻の代金も払わねーって言いやがったことでヤンス。そりゃ組織も怒るでしょ? 顔に泥を塗られた。だったら報復をするしかない。それが、今回アッシらがザ・ゲームに参加する事になった理由でヤンス」
ーー大麻?
「日本じゃ、ダメー!!」アオピルが大きく手でバツを作る。
「ヌドランゲタだけじゃなく、お坊さんもヤッテンノカヨー」アカピルが頭を抱える。
ーーんと。
「いくらくらい払ってくれないの?」
 聞かれてボルサリーノは、初めて口が滑ったという顔をした。だが、気楽な性格なのだろう。すぐに観念して話を続ける。
「大麻2000万円と、賠償金5000万円でヤンス」
ーーわ。大金。あのハンドバックひとつで……。
 サオリは、頭の中を整理することにした。
ーーんー。ヌドランゲタがお坊さんと大麻の取引をしてたてことは……。
「タマネギおばさんも、真言立川流の信者だったってことだね」ミドピルが補足する。
「で、ボルサリーノがマフィアの一員」ピョレットも付け加える。
ーー人は見かけによらないねぇ。
 サオリは目の前の細い白人を見ながら、変なところで感心した。それから、聞いた話を頭の中でまとめることにした。
ーーえと、ヌドランゲタは事を荒立てたくなかった。それから、盗まれたことにも気づいていた。他人がいない場所で、ひそかに犯人を捕まえるつもりだった。けど、アタピが犯人を捕まえた。そのせいで警察が介入して、密輸が国家権力にバレてしまった。
「てことは、バレたの、サオリのせい?」キーピルが尋ねる。
「恨まれてんじゃないの?」アオピルが震える。
「アタピ、恨まれてんの?」サオリは思わず、声を出してしまった。
「いやいや。エスゼロちゃんは安心して。ただ泥棒を捕まえようとしてくれただけでヤンスから。アッシらは完全に、真言立川流だけをターゲットにさだめているでヤンス」
 2000万円もする取引だ。どちらに責任があるのかで揉めたことは想像に難くない。そして、世間知らずの真言立川流だ。おそらく、死ぬよりナメられる方が屈辱だと思っているリリウス・ヌドリーナの琴線に触れたのだろう。
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