第66話 1回戦(4) First Round

文字数 1,006文字

 ブザー音がなる。ドーマウスは再び、巨大ポットの上からピストルを鳴らした。
 また、追いかけっこのような音楽が大音量で流れ始める。天井につり下げられた色とりどりのランタンは、思い出したかのようにいっせいに点滅を開始する。ミステリアスなパステル空間の中で、ティーカップと地面が動きはじめる。
「立っていると危ないですからねぇ」オポポニーチェは、再びティーカップに腰を下ろした。
 どこから取り出したのか、中央についたハンドルに白い布をかぶせ、その上に紅茶のセットを置いている。文字通りの、マッド・ハット・ティー・パーティというわけだ。
 アイゼンは敵の動きを注視しながら、サオリとギンジロウに作戦を説明した。
「まずは3チームの動きをしっかりと見よう。誰かが近づいて来た時だけは、私とギンで、2対1の状況を作り出す。その間、エスゼロは逃げ回っていてくれ。相手の鈴は、100パーセント奪えると確信した時だけ狙えばいい。取れなくても、相手の集中を削ぐようなちょっかいをかけてくれるとありがたい」
ーー練習でやったやつ。コンビネーションNo.2。
「りょ」サオリは敵を見据えた。
「わかった」ギンジロウも滾っている。
 タンザたちリリウス・ヌドリーナは遠くにいる。
 カンレンたち真言立川流も屋根の上だ。
 オポポニーチェたち黄金薔薇十字団は、ただただティーパーティーを楽しんでいるように見える。
ーーどこから攻めてくるんだろ?
 サオリは、3チームが動くタイミングを見逃さないように身構えた。
「サオリー。ティーカップ乗りたい!」アオピルが裾を引っ張る。
「黄色いカップがいい!」キーピルが髪の毛にぶら下がる。
「もう我慢できないー」アカピルは言うが早いか、動いている床に飛び乗る。「あー」と言いながら、たくさんのティーカップの影に消えていった。
ーーもー、仕方ないなー。
 サオリは苦笑した後で考えた。
ーーアタピはチームにおいて、相手を撹乱させるのが役目。だとすると、ここはティーカップに乗るのが一番いいのかなー。でも待てよ。動く床に乗って、ティーカップの影に隠れながら撹乱する、というのもありかなー。
「もしかしてサオリ、ティーカップを避けて遊びたいだけなんじゃないのー?」ピョレットがちょこまかと動く。
「普段は絶対できないもんねー」シロピルの言葉に、サオリはビクリとした。
ーーそんなこと……ない……。
 サオリは、ドキドキする好奇心を抑えられなかった。
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