第221話 出迎え Greeting

文字数 1,263文字

 送迎車に乗り込んだオポポニーチェは、東京ディズニーランドを出ると、すぐに車を降りた。そして、隣にあるイクスピアリへと忍び込ぶ。
 イクスピアリは、約100店舗の店が並ぶ、商業アミューズメントパークだ。まだ開店はしていないので、人はいない。ほんの十人にも満たない警備員の目を盗むことは、オポポニーチェにとって児戯にも等しかった。
 映画館の前の広場まで足を運び、結界を張る。広場の地面には、マイクが埋め込まれている。そこで話すと、声が大きくなる。オポポニーチェは気持ちを解放させるように、大声で歌い出していた。
「13日目のクリスマス。愛おしき悪霊の贈り物。無限の力を与えし13の髑髏。未来を予知する12の星座。神秘的な香り漂わす11のキャンドル♪」
「随分とご機嫌ですね、オポポニーチェ様」結界に入ってくる者がいる。長身痩躯。伝統的なイギリス紳士の顔をした青年だ。髪は金髪で長い。明らかに貴族の家のものだ。
「オポポ。聞かれていましたか」オポポニーチェは、照れている振りをした。
「その歌は……」ヘンリー・ホワイトムーアは尋ねる。
「久しぶりに、昔のことを思い出してしまいました」オポポニーチェは、サオリのことを考えているうちに、いつの間にか、『穢れた薔薇事件』について思い出していたのだ。
 ヘンリーはヤマナカから、「オポポニーチェの過去については語らせるな」と言われている。すぐに話題を切り替えた。
「試合、見ていましたよ。残念ながら、NO.8トマスの回収は出来ませんでしたね」
「オポポ。少々遊び過ぎてしまいました。お恥ずかしい。けれども、目標は達成いたしましたよ」
 オポポニーチェは、左腕を捲って見せた。多数のバラの入れ墨が入っている。そのうちの一つが、心臓のように生赤い。
「それがサオリの」
「ええ。FDS3なら3回分の発動が可能です。そして、これが、今回の作戦で使用するバラです」左腕の他の部分のバラを指差す。
 けれどもヘンリーは、細かいバラの位置についての興味は持っていなかった。
「安心しました」
「ヘンリーさん。貴方たちの作戦の方はどうなってらっしゃいますか?」オポポニーチェも尋ねる。ヘンリーは、長い髪をそっとなびかせて応えた。
「二ヶ月前に、A2作戦は成功しております。連絡は取れませんが、ヤツならうまくやるでしょう。そしてモフフローゼンチーム。彼らも、裏切り者を使い、例のブツを回収できました。明日はアイゼンたちの入団式のため、KORもほぼ全員、円卓の間に集まります」礼儀正しく、全ての説明を、簡潔に。
 オポポニーチェは満足した。
「そうですか。後は、ヤマナカさんの仕掛けだけ、ですか。ならば計画に支障はないようですね。オーッポッポッポッポッポ」
「ええ。とりあえずは、私たちもリアルカディアへと向かいましょう。最後の作戦会議の準備は整えております」
「きっと、世界が驚くでしょうねぇ。オポポ」
 ヘンリーが背筋を伸ばしたまましゃがみ、地面に手をつくと、結界の中は明るく光った。
 そして静寂。
 二人は、すでにイクスピアリから消えていた。
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