第147話 最後のアトラクションツアー Last Tour

文字数 2,460文字

 ワイアヌエヌエ・カジノにある巨大スクリーンも、世界中のフリーメイソン・グランドロッジにあるスクリーンも、一斉にクリケットが映し出される。いよいよ日本時間の5時6分。最後のアトラクションツアーの始まりだ。
「さぁ。ここからは私、クリケットが、4回戦の試合場、カリブの海賊についてご紹介いたします! 1時間後の戦場にはどんな運命が眠っているのか。みなさま、これから起こりうる激闘について、どうぞ、ご想像してご覧ください!」
 全観客が拍手喝采だ。不気味な洋館の前に立つクリケットが、大きく手を挙げる。
「このアトラクションは、17世紀から19世紀のカリブ海が舞台となっております。ウォルト・ディズニーが最後に設計に携わったアトラクションであり、総工費が一番高いことでも有名です! 1周にかかる所要時間は約15分。ホーンデッドマンションと同じく、東京ディズニーランドでは最も長いアトラクションのひとつです! エリアは10に分かれております!!
 説明を終えたクリケットは、洋館の中へと進んでいく。
 だだっ広い空間。低い柵と鉄柱が整然と並んでいる。Qラインのために使用されるものだ。チェーンは全て外されてある。天井は低い。煉瓦造りは最初だけだ。奥は石で作られた床。壁は淡い色の緑とピンクで統一されている。薄暗い。肖像画が飾られている。描かれている人物はジャン・ラフィット。伝説の海賊だ。
「第1エリアはここ、ジャン・ラフィットの船着場だ! 奥には2階に続く階段もありますが、試合場として認定されているのはこの階だけです!」
 右奥に進むと暗くなる。静かだ。虫の鳴く声が聞こえる。大きな川。船着場が見える。ゆっくりとバトーが漂う。クリケットはそのままバトーに乗り込んだ。
「このバトーは、20人乗りの大型ボートです。向こう岸をご覧ください!」
 地中海風レストランだ。白布がかけられた4人がけのテーブルが100席以上並んでいる。暗闇の中、キャンドルやカンテラが薄ぼんやりと光っている。雰囲気がいい。
「第2エリアはあちら。ブルーバイユーレストランです!」
 クリケットを乗せたバトーは水をかき分け進んでいく。今までのアトラクションで一番暗い。のんびりとした、アメリカの古き良き街並みという感じだ。向こう岸では揺り椅子に乗ったおじいさんが手を振っている。
「あそこで手を振るはサム爺さん。ここは第3エリア。海賊が滅んだ後の平和なニューオーリンズです! ここを過ぎるとタイムスリップして過去へ向います」
 進む先にはトンネル。頭上には、立体的なジョン・ラカム式のジョリー・ロジャーが張り付いている。のんびりとした街にはふさわしくない。
 ジョリー・ロジャーについているドクロが危険勧告をする。
 ギギギギギ。
 重い木の扉がゆっくりと開く。中は真っ暗だ。バトーはその中を進んでいき、突然5メートルほどの急流を落ちた。速度が上がる。雰囲気も先程までとは打って変わる。薄暗い洞窟。抜けると白い砂浜の入江へと到着した。戦いで死んだのだろう。骨になった海賊たちの死体が転がっている。死屍累々とはこのことだ。
「第4エリアはデッドマンズ・コープ。死者たちの入江です。ドクロを巡る戦いの結末には誠にふさわしいエリアとなっております。果たしてドクロは誰に微笑みかけるのでしょうか?」
 小さな滝がいくつも流れている荒れた洞窟をバトーは進む。奥には海賊たちの隠れ家だ。生きている者は誰もいない。さらに洞窟を進む。金銀財宝が積まれた宝の山。船長姿のガイコツがネックレスを掴んだまま息絶えている。
「第5エリアは宝の山! この宝を見たものは呪われてしまうという曰く付きのお宝となっております!」骸骨船長がクリケットの紹介に感謝するように手を挙げている。
 このエリアは短い。すぐに脅しの声と共に、霧の中にイソギンチャクのバケモノが映し出された。ディビー・ジョーンズ。映画『カリブの海賊』の敵役だ。
 バケモノの顔が映し出された霧の中を勇敢に突き抜けると、大きな海原へと放り出される。たくさんの船。撃ち込まれる弾丸や大砲の弾。クリケットを乗せたバトーは、海賊と軍隊が争いあう海上戦のど真ん中にいた。
「第6エリアは海上戦。大砲の弾が入り乱れております! この戦いの勝者は誰になるのでしょうか!」
 戦いの海を抜けると街だ。今までのエリアで一番明るい。海賊たちが楽しそうに町中で略奪を犯している。捕まえられた女性たちがオークションにかけられている。実際に遭遇したら目も覆うような出来事だが、なぜか陽気に見える。海賊たちのキャラクターのせいだろう。
「第7エリアは襲撃された街! 街中にいるたくさんの海賊たちは、物語の主人公を探しています! ここからうまく逃げ回り、見事お宝まで辿り着けるのは誰か? ステージで最も長いエリアです!」
 街並みの中を逃げ回るジャック・スパローの長い物語が続いていく。
 3分以上続くと場面は変わる。暗がりの中に牢獄が並ぶ。中には様々な海賊たちが投獄されている。みんなが助けを求めて手を伸ばしている。
「第8エリアは牢獄です! 投獄された哀れな海賊と、銃を撃つご機嫌な海賊。立場の違う荒くれ者どもがお出迎えをしてくれます!」
 ここは短い。少し進んですぐに止まる。豪華な部屋にたどり着く。財宝に囲まれたジャック・スパローが、陽気にオウムと話している。
「第9エリアは理想の部屋! バトーが20秒ほど止まります。この時間こそ、本当の宝を手に入れる絶好のチャンスなのかもしれません!」クリケットは説明を止めない。
「最後のエリアは降船口。足元も定まらない暗い場所でスロープをどう使うのか。ここも腕も見せ所になります!」
 降りた先には地上へと向かう長い動く歩道がある。
「ここまでがステージです! さて最終戦。誰が勝利を手にするか? まだまだ時間はございます。ゆっくりとお考えください! お宝が手に入れられることを祈ってます!」
 クリケットはバトーから降り、カメラに向かって大きく手を振った。
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