第196話 復活 Revival

文字数 2,261文字

 クマオはくすぐったがった後、クマオポケットから巾着袋を取り出した。中を除くと、3つの宝石と1粒の飴が入っている。
ーーメッセージキャンデーや!!
 念をこめると映像入りのメッセージを入れておける、消費型のGランク・ホープ・ファンタジーだ。舐めた相手は、メッセージを知ることができる。
 味も舌触りもない。だが、クマオの頭には、フタバの映像と言葉が流れ込んでいく。
『3人とも合格だって。おめでとう。試合の結果はどうだろうと、KOKの入団は決定した。今から錬金術の使用は解禁だよ。それから、明日の夕方に、リアルカディアの円卓の間で叙勲式をおこなわれる。遅れそうなら、クマオを通して連絡してくれ。それから、イコンが使えるように、三人のPSも同封しておく。それと愛染に、「師匠からもOKが出た」と伝えておいてくれ。また会えるのを楽しみにしてるよ。もちろん、クマオやピョーピルとも、ね』
 クマオはメッセージキャンディーを舐め終えた。
「どしたの?」しきりにうなづくクマオに、サオリが声を掛ける。
「これや」クマオはニヤリと笑い、偉そうに巾着袋を渡す。
ーーあ!
 サオリはお礼も躊躇もせず、当然のようにクマオの手から巾着袋を奪いとった。
ーーこれて!
 中には3人の賢者の石が入っていた。興奮した目つきでクマオを見る。
「フタバからや。入団試験は合格やから、錬金術、つこてええて。後、明日の夕方に、円卓の間でパーティー開くて」クマオは自慢げに、体ごと反り返った。
ーーやた! ザ・リバイバル・ロマンチ!! アタピのスカイ!!
 サオリは、車が停まったことにも気づかないほど、返却された賢者の石に夢中になっていた。

 一方、ワイアヌエヌエ・カジノの解説席だ。クーが帰ってこないので、マックス・ビーとフタバが場を繋いでいる。
 客の興奮は増すばかり。解説席に向かって「どうなってるんだ」とヤジを飛ばす。
 だが、解説の2人には、ルールを決定する権利がない。少し考えれば分かることだ。
 それでも、客は身近な相手に文句を言う。本社ではなく、窓口のバイトにたいして怒鳴るクレーマーと同じだ。意味がない上に、ただ危ない。
 身近な相手ということでは更に危険な場所にいるインタビュアーのダイナソンは、既に避難を完了している。
「クーは、なかなか帰ってこないな」マックス・ビーは苛立ったような、困った顔をしながら解説を続けた。
ーー難しい。
 マックス・ビーも分かっている。委員会の思惑一つで優勝者が変わってしまうなら、「今までのゲームはなんだったのか」と客から怒鳴られること必定だ。ここで迂闊に自分の意見を言うことで、客からの反感を買うリスクを冒したくはない。
ーーフタバ……。
 マックス・ビーはフタバを見た。あまりフタバに責任転嫁をしたくはないが、自分に責が及ぶくらいならフタバに被せてしまっても仕方がないか、という思いが少しだけ、マックス・ビーを誘惑した。
「フタバはどう思うんだ?」
ーーおいら?
 先ほどまで、巾着袋をクマオに送ることに注意を取られていたフタバは、自分を指差した後、当然のように気軽に話を進めた。
「引き分けだからね。1対1の代表戦でしょ?」
「え?」観客とマックス・ビーの動きが止まった。
「ん?」フタバは首を捻る。
「……なぜ、フタバはそう思うんだ?」マックス・ビーと観客の心は一つになっていた。
「そりゃだって……、前にも一度あったよ」
「そうなのか?」マックス・ビーと共に客はざわつく。
「ああ。だって、おいらが出場したザ・ゲームでの出来事だからさ」
 委員会室で話を聞いていたクーに光明がさした。
「過去の事例? 見つかったか?」
「まだ調べています」
「フタバだ。フタバエンドが出場した試合を探せ!」
「はい。……見つかりました! 第1回大会の前におこなわれたプレゲームだったんですね! これでは見つからない。確かに引き分け、代表戦になっております!!
「それだ! これで決めるぞ!!
 今回はカイナルも止めない。クーの悩みは霧が晴れたように解決した。すぐに解説席に戻る。
「ただいま確認いたしました!」
 客が鎮まる。視線は全てクーに注がれている。
「今回のザ・ゲームは、過去の慣例に従い、優勝決定戦へと突入いたします!」
「わーーーーーっっっ!!!」文句なく決まればなんでも良いのだ。
 楽しみがひとつ増えた大半の客は大いに喜んだ。クーは説明を続ける。
「試合形式は、リリウス・ヌドリーナとダビデ王の騎士団、各代表による1対1の純粋な肉弾戦となります! 舞台はシンデレラ城前ステージ! ルールは、ギブアップかノックアウト、代表者以外の乱入、もしくは、ステージから落とされた場合に負けとなります! 武器の使用以外は、禁止事項はありません! 目を潰そうが、急所を蹴ろうが、全てが自由です! 試合開始は6時60分! 6時66分に決着がつかなかった場合は、マストシステムによる判定で勝負が決まります! 審判は、今まで試合を見てきた5人、ドーマウス、ウィニー・ザ・プー、ゴーストホスト、ジョニー・デップ、そして主審は、ジムニー・クリケット! 今回の賭け方は、時間もございませんので、お手持ちのタブレットから1万ドルだけ賭けられる、という方式を取らさせていただきます!」
「ワー! 」観客の歓声がすごい。
 成功や失敗は、いつも実行してから分かる。今回の判断は、どうやら成功だったようだ。
ーー今度こそ憂いがない。
 ザ・ゲーム委員会に延長戦の準備を指示したクーは、ようやく落ち着いて解説席に腰を下ろした。
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