第87話 2回戦(1) Second Round

文字数 2,022文字

 クーの呼びかけで、映像は東京ディズニーランドへと切り替わった。画面には、黄色く太った憎いヤツ、誰もが知ってるクマのプーさんが映っている。
「今回は、僕が、審判をやるよぉ」プーさんは、ゆっくりと太い声で話す。
「まずはネズミチーム、リリウス・ヌドランゲタからスタートするよー」
 タンザは指を鳴らしながら、一歩前に出た。ビンゴとボルサリーノも続く。
「いくか」
「どうぞー」
 ゆるい感じで2回戦が始まった。
 イギリスののどかな田園風景を、白いスーツで決めた3人のマフィアが歩いていく。真夜中だからだろうか。なぜかイギリスの風景に似合っている。イタリア人にも関わらず、パッと見はイギリス紳士のようだ。ビンゴが口を開く。
「兄弟。今回はどんな作戦なんだ?」
 タンザは、景色を楽しみながら答えた。
「さっきざっとビデオで見たが、ここはなかなか広いステージだ。隠れる場所がたくさんある。坊主どもを自由にさせてしまうのは馬鹿馬鹿しい。奴らを早めに待ち伏せて一気に殲滅。鈴を奪った後で、順番に、残りのネコどもを狩っていこう」
「いいねー」
 ビンゴは頭が良くない。なにを言われようが、なんでも兄貴分のタンザの言いなりだ。ただ、組織をナメている奴らに制裁を加える。ただ、マルコとタンザの役に立つ。ただ、暴れる。それだけでいい。
 タンザたちの目の先には、イギリスの田園風景に似合った、田舎の納屋が見えてくる。
ーーこの納屋に隠れるか?
 3人は1つ目のエリア、クリストファー・ロビンの納屋についた。壁を触る。
 2メートルを大きく越えている2人には狭過ぎる。
「兄弟。俺の頭が隠れられないぜ」ビンゴは自慢げだ。
ーーここは無理か。早めに叩いてしまいたいのだが。
 タンザは先を見た。奥は部屋になっている。部屋は広めで、待機列を作るための低い柵と、柵に沿ってたくさんのオブジェが並んでいる。巨大な本のページを模した、平べったいオブジェだ。3メートルはあるだろうか。英語で物語が描かれている。タンザは、そのうちの一枚を読んでみた。
ーープーさんは風に飛ばされてしまいました、か。可愛いじゃねーか。
 オブジェのひとつひとつに、クマのプーさんの物語が描かれている。物語の世界に入っていけるように工夫が凝らされている。ストーリーが続いて、このままアトラクションに進んでいくようだ。
「この本の裏側なんてどうだ?」タンザは本のオブジェを叩いた。中身がない、軽い音がする。ビンゴも同じように、違う本のオブジェを叩いている。手を伸ばすとオブジェの一番上にも触れる。
「うん。……大きさは問題ないな。しかも、この軽いオブジェ。兄弟と2人で左右に隠れて、坊主どもが間に入った瞬間に思い切り押したら、坊主どもを3人まとめて一気に押し潰せるんじゃねーのか?」
「ハッハッハ。そいつぁ爽快だな」
 タンザは豪快な作戦が好きだ。ビンゴの言葉が気に入った。オブジェの位置を見ながら作戦を練る。
「そうだな。ビンゴがそこに隠れる。俺は奥に隠れる。ボルは真ん中に隠れる。俺たちの次に来るGRCとKOKはやり過ごし、坊主が来たところで俺が出る。俺1人で3人を相手にしてもいいが、戦うのは簡単だが、逃げられるのは厄介だ。逃げないように、ビンゴが後ろから囲ってくれ。ボルは間に隠れて、隙があったら奴らの鈴を奪えばいい。だが、まずは奪られないようにしろ。後は俺らがやってやる」
 ボルサリーノは心配だった。作戦が杜撰すぎる。なんせ、じっくりと注意しながら歩かれたら、黄金薔薇十字団もダビデ王の騎士団も、簡単に自分たちを見つけることができる。一応隠れることはできるが、頭隠して尻隠さず。それくらいバレバレの隠れ場所なのだ。
「しかしタンザさん。アッシ、聞いたことがあるでヤンス。逃げられないようにすると、覚悟を決めて敵が強くなることがあるって。日本のことわざでは、たしか窮鼠猫を噛む……」
「ボル」タンザは言葉をとめさせて、ボルサリーノをにらんだ。
「お前……、誰に向かって口をきいてんだ?」
ーーヒ、ヒィ!
 ボルサリーノは頭を押さえて震えた。少し漏らしてもいた。 
「俺たちを見ろ。猫でも鼠でもない。虎だ。リリウス・ヌドリーナは、常に獲物ではねぇ。絶対的な捕食者だ」タンザには絶対の自信がある。自分が、自分たちが世界で一番強い、という圧倒的な自負が。
「それに、今回のネズミは奴らじゃねぇ。俺たちだからな。窮鼠は猫を噛むが、窮猫は巨大なネズミを噛めねぇ」ビンゴも当然、自分たちが勝つという顔をしている。
 ボルサリーノは、それ以上逆らうことをやめ、おとなしくタンザの指示の元、本の裏に隠れた。
ーーボルのくせに生意気だな。これ以上なにか言ってきたら、ぶっ飛ばしてやるところだった。だがまぁ、ギリギリのところでイラつかせねぇところが、あいつをいつまでも飼っておきてぇところなんだよな。
 タンザはビンゴに合図を送り、3人はそれぞれの隠れ場所で獲物を待つ準備を整えた。
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