第146話 美女と野獣(2) Beauty And Beast

文字数 1,423文字

「それは?」
「私たちがGRCを倒すまでは共闘する、ということです」
「共闘? 俺らと? お前らが?」タンザは驚いたような顔をした。考えもしなかった。だが、無くはない。
ーービンゴとイノギンがオポポニーチェと正対する。その間に俺らでフォーとシザーの鈴をとる。その後、全員でオポポニーチェを囲む。いかに幻想を使えるとはいえ、囲い込めば物理的に逃げられないだろう。勝算はかなり高まる。その後、こいつらと決着を付ける。現在、得点は41対28。13点差だ。坊主の野郎と結託しているようだが、奴らの9点を足してもまだ4点差ある。戦闘力だけならこいつらには負けねぇ。
 タンザが計算していると、キッチンで聞いていたビンゴが怒鳴りかけた。
「おい、ラーガ・ラージャ! 俺らが手を組む訳ねーだろ! なぁ、ブラザー」
「黙ってろ」相手からの提案。せっかく主導権を奪るチャンスだったタンザだ。この水のさされ方は気に入らなかった。アイゼンはビンゴに体を向けた。
「ではビンゴさん。あなたはオポポニーチェに勝てるのですか?」
「あたりめーだ」ビンゴは鼻息荒く言い放った。
「どのように?」
「SVがある」偉そうだ。
「どうやって当てるの?」
ーーう。
 ビンゴは言葉に詰まった。言葉の自信に中身がない。単なる売り言葉に買い言葉。このカッコ悪さをタンザに見せたいがために、アイゼンは質問を繰り返していた。
 タンザも聞いていて、先ほどまで同じような対応をしていた自分が恥ずかしくなってしまった。会話の主導権はアイゼンに移っていた。
「勝てないでしょ? でも、私には戦術がある。手を組めばオポポニーチェに勝利する自信がある。GRCを仕留めた後で仕切り直し、改めて正々堂々、力比べをして雌雄を決しましょうよ。もし、あなた方が自分の力に自信があるなら、ね」
 戦闘力には自信がある。タンザは考え直した。
ーー確かにそうだ。手を組まねぇ限り、俺たちは次の試合もGRCにやられちまう。こいつらと争うと決めた時点で負けが決まっちまう。組みやすいのは、よく分からねぇ錬金術師じゃねぇ。日本のガキどもだ。それは間違いねぇ。
 タンザは頭がいい。勝利のためには何をすればいいのかを瞬時に理解した。後は自分たちの威厳を保つための小芝居だ。
 立ち上がり、アイゼンに右手を差し出す。
「俺は正々堂々と闘いたい。小手先の技に惑わされたくはない。奴らは俺たちの神聖なる闘いを侮辱している。排除すべき存在だ。仕方がない。お前らと手を結んでやろう」
 アイゼンも立ち上がる。
 ともに握手を交わす。
 アイゼンの手はタンザと比べると小さくて華奢だ。体温も冷たい。
ーーこんな弱者で大丈夫か?
 タンザは直感を信じて共闘したが、手を組むにしては頼りない相手だと感じた。だが、オポポニーチェにたいする戦術を聞いているうちに考えは変わる。気づけばアイゼンへの敬意と不安が膨らみ始めていた。こんな感情はカトゥー、マルコ・リリウス、マルネラ・ドラコフスキーにしか感じたことはない。
ーーただの美少女にしか見えねーガキのくせに、こいつは既にカリスマ性をもってやがる。戦略も兼ね備えてやがる。なにか俺らとは違う。スキピオやガリバルディ。いわゆる英雄と呼ばれる人間は、こんなヤツだったのかもしれねーな。
 それでも負けを認めるほど心は折れていない。タンザは勢いに飲み込まれないように虚勢を張った。魂まで見透かしているぞ、と覗いてくるアイゼンの黒目をじっと見つめ返しながら。
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