第200話 VIPルームE(4) VIP Room E

文字数 1,575文字

 つまり、世界の未来の選択は、ロスチャイルド率いる欧州派、ロックフェラー率いるアメリカ保守派、FANGAMを中心としたアメリカネオコン派、中国共産党率いる中国統一派の4通りに分かれている。タクシス家としては、この4派全ての動きをうまく操らなければならない。
 カールアウグストの質問は、欧州派とアメリカ保守派とアメリカネオコン派はコントロールできても、中国統一派はコントロールできないのではないかという意味だ。
 ヨハネスは続ける。
「そこで、中国共産党に対しては、懐柔作戦を開始したイルミナティの、後方支援を開始しております」
「どんな作戦なのだ?」
「中国共産党とはいえ、一億人もいる巨大組織である以上、一枚岩ではありません。イルミナティは、習近平総書記を諦め、NO.2である李克強首相を盛り上げていくようです。彼らに資金を提供しようと」
「どこで情報を得た?」
「共産党内部にスパイを忍ばせております。また、次の地位を狙っているチャイナセブンは李克強だけではありません。彼らとも、協力体制を整えている最中です」
「そうか」カールアウグストは、少し不安げにうなづいた。
ーー強い者同士で協定を結び、みんなと仲良くしようとするのはいいことだ。だが、ヨハネス。お前は、対中国政策の重要性が分かっているのだろうか。
 中国共産党は、弱小国を占領し、占領した国の文化を否定し、自国の大企業であっても逆らえば一瞬で潰せるような仕組みを作っている。土地も中国国家のものなので買うことができない。あくまで借りるだけだ。これは、シー・ジンピンという一代の天才が作り上げた国家戦略だ。だが今後、誰が総書記にとって代わったとしても、中国の性格として存続されるだろう。
ーーもし、中国が世界を統一してしまったら、12貴族も13血流も間違いなく解体させられる。解体しないなんて嘘をつかれても信じるな。今までの実績がそれを物語っている。チャイナセブンも協力する振りをして嘘をついているかも知れぬ。ヨハネス。騙されることなかれ。
 カールアウグストのつかんだ情報では、中国は錬金術にも興味を持ち始めている。オーパーツに興味を持ったナチスドイツと同じ方向に向かっている。おそらく静観していれば、着々と静かにファンタジーを集め始め、時が来たら、ダビデ王の騎士団との戦いも辞さないだろう。いくら精鋭の錬金術師が揃っているダビデ王の騎士団でも、300万人の中国人民解放軍に本気を出されれば敵わない。
ーーそういう意味で、新しいものに興味を持つアルベルトにもまた、期待をしているのだ。
「お父上?」ヨハネスに呼ばれて、カールアウグストは振り返った。どうやら、思索に耽っていたようだ。
「ああ」
「優勝決定戦。まもなく、代表者が決まるようですよ」年齢は40に届きそうなヨハネスだ。だが、我が子だけあって、まだどこか無邪気な部分が垣間見られる。
ーーなぜ、いくつになっても息子は可愛いのだろう。
 先のことをここで考えても仕方がない。カールアウグストには、余生の終わりが見えている。
ーー今はタクシス家のこともすべて忘れ、ただ親子団欒を楽しむことにしよう。
 カールアウグストは、つとめて明るい声で尋ねた。
「おお。ヨハネスはどちらが勝つと思うのだ?」
「アルベルトがうちのお姫様に夢中なように、私も、こちらのお姫様に夢中ですよ」
「お姫様? ラーガ・ラージャとエスゼロのことか。お前はどちらを応援しているのだ?」男女とも、異性のことを話す時には鼻の下が伸びる。
「ラーガ・ラージャですね。美人で背が高く、オリエンタルで頭がいい。まさに好みです」ヨハネスは、自分の父に鼻の下が伸びる姿を見せないように、心を落ち着かせながら答えた。
「やはり親子だな。私も、彼女には興味を惹かれている」
 2人は仲良く並び、窓越しに巨大スクリーンを注視した。
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