第153話 試合予想 Prediction

文字数 3,118文字

 ワイアヌエヌエ・カジノの客はすでに出来上がっている。予算を超えてもまだ賭け続ける者。更に大きな勝負に出ようとする者。ベットし終えて自分の席で手を組んでいる者。時間ギリギリまで考える者。自暴自棄になって浴びるように酒を飲んでいる者。誰が勝者で誰が敗者か、2階の解説席から見ると一目瞭然だ。
「さあ。最終試合まであと15分。ベットタイム終了まで後5分! 今回の賭け率はこうなりました!」クーの言葉を合図に巨大スクリーンには勝敗予想が映しだされた。

現在総合得点
1位 黄金薔薇十字団    52点 ↑
2位 リリウス・ヌドリーナ 41点 ↓
3位 ダビデ王の騎士団   28点  -
4位 真言立川流       5点 -

4回戦結果予想
ダビデ王の騎士団    6.66倍 △
真言立川流        不成立 ×
リリウス・ヌドリーナ   3.6倍 ○
黄金薔薇十字団      1.8倍 ◎

4回戦MVP予想
1オポポニーチェ (黄金薔薇十字団)    ↑1up
2タンザ     (リリウス・ヌドリーナ) ↓1down
3エスゼロ    (ダビデ王の騎士団)   ↑2up
4ラーガ・ラージャ(ダビデ王の騎士団)    -
5ビンゴ     (リリウス・ヌドリーナ) ↓2down
6ボルサリーノ  (リリウス・ヌドリーナ) ↑1up
7イノギン    (ダビデ王の騎士団)   ↑1up
8カンレン    (真言立川流)      ↓2down
9カンショウ   (真言立川流)       -
10ジャクジョウ (真言立川流)       -
11フォー    (黄金薔薇十字団)     -
12シザー    (黄金薔薇十字団)     -

最終結果予想
1黄金薔薇十字団
2リリウス・ヌドリーナ
3ダビデ王の騎士団
4真言立川流

最終MVP予想
1オポポニーチェ (黄金薔薇十字団)
2タンザ     (リリウス・ヌドリーナ)
3ラーガ・ラージャ(ダビデ王の騎士団)
4エスゼロ    (ダビデ王の騎士団)
5ビンゴ     (リリウス・ヌドリーナ)
6ボルサリーノ  (リリウス・ヌドリーナ)
7イノギン    (ダビデ王の騎士団)
他プレイヤーは0票のため、賭け不成立

ーーエスゼロきゅん! 頑張って!!
 月の間にいるヒナは、最終戦のMVP予想に激しく心を持っていかれた。ジャニーズファンだったら団扇を持って叫んでいるところだ。
「見てください! オポポニーチェ一択と思われたMVP予想に、エスゼロが3位まで上昇してきました!」クーがフタバに話を振る。
「うん。1回戦こそ振わなかったけど、2回戦ではオポポニーチェから尻尾を取ってるし、3回戦でも最後まで残ってる。しっかりと実績を残してるからねぇ」フタバは満更でもない。
「ふん。フタバに踊らされているバカが増えた。それだけだ」マックス・ビーは最後までダビデ王の騎士団を応援しない方針だ。解説中、階下がざわつく。
「エスゼロとKOKに300万ドルずつ賭けた奴がいるぞー」客の1人が大声で喚く。
ーージンバブエの国家予算並みじゃないか。
 フタバはその姿を探した。涼しい顔をしてベット場から観覧席へと戻っていく金髪の美少年を客が遠巻きに囲んでいる。彼だ。間違いない。フタバは彼のことをよく知っていた。ドーラ会ランキング46位。雷と不思議の王ジョット。有名な怪盗だ。
 ジョットはカトゥーの最後の弟子で、子供の頃からサオリを知っている。ソングNo.0事件でもサオリを助けた。つまりサオリのことが大好きだ。
ーーサオリ。勝てよ。勝ったら金を渡して告白する。
 ジョットはドッカと赤いソファーに座り、周囲の目などは気にせず巨大スクリーンに目を移した。
「いやー。すごい客が現れましたねぇ」クーは驚きを隠せない。
「彼は有名だがまだ若い。金の使い方も分かってないんだろう」マックス・ビーは呆れ顔だ。
「いやいや。立派な青年だよ、彼は」フタバは褒めた。ジョットがいかに苦労して今の地位にたどり着いたかをよく知っているからだ。
「そういえば、彼もフタバさんの推薦でドーラ会に入ったんですよね?」クーは他意なくフタバにたずねた。
「まぁ……」それは彼の実力で僕とは関係ないよと言おうと思ったが、また身内に対するがゆえの甘い評価かという顔でマックス・ビーが睨んでいる。
「その話はいいじゃないか」こんなところで軋轢プロレスをしてても仕方がない。なんせ勝負は最終戦。解説席でプロレスごっこなどしなくとも十分会場は温まっている。
「それより最終戦について話そうよ」
 クーも慌てて進行に戻らなくてはならないことに気がついた。
「衝撃的すぎてすっかり忘れていました。はい。元に戻しましょう。首位は黄金薔薇十字団。11点差で追いかけるのはリリウス・ヌドリーナ。ダビデ王の騎士団は24点差。真言立川流は4回戦で得られる42点全てを獲得しても優勝はできませんので脱落になりますね。4回戦だけでも勝利すればMVPには選ばれますが、さてどうでしょう?」
「坊主どもはもうダメだろ」マックス・ビーがこともなげに切り捨てる。
「3回戦ではあわやというところまで健闘したんですけどねぇ。怪我人2人を抱えていると流石にきついですか?」
「そうじゃなくて。彼らは単純に準備不足だった」
「ヌドランゲタのSVにオポポニーチェの錬金術。他のチームには隠していた切り札があったのに彼らにはなかった。それが敗因だね」キャッチ・ザ・マウスのように自由度が高い競技ほど奥の手をたくさん持っているチームが有利になる。フタバもマックス・ビーの意見を補足した。
「その原理でいくとダビデ王の騎士団は……」
「ああ。これだけの点差がそれを物語っている。試合はGRCとヌドランゲタの一騎打ちだ」クーがフタバに出した質問を、マックス・ビーは横取りした。
「いやいや。KOKもまだ切り札を出していないだけだとしたら?」フタバは割り込むことが嫌いだが、空気を読んで自分の意見を差し込んだ。
「出すにしてももう遅いだろう。24点差だぞ?」
「んー。どうかな?」
「ということは、フタバさんは終始変わらず?」クーが司会を取り返す。
「うん。KOKが勝つと思う」
「マックス・ビーさんは?」
「一騎打ちとはいっても、結局はオポポニーチェVS殺戮の巨神兵という構図だ。だったら力押しのタンザとビンゴよりも、触ることができないオポポニーチェの方が強いだろう」
「伏兵がいるかもよ?」いつもはフタバの軽口には軽口で返すマックス・ビーだが、今回は珍しく口が重い。
「もし仮に、仮にだぞ。エスゼロがオポポニーチェの天敵で、何らかの手段で鈴を取るとしよう。それでもこの点差は埋められない」
「では、マックス・ビーさんは黄金薔薇十字団の優勝を予想するんですね?」クーが時計を見ながら決断を迫る。
「そうだな。4回戦の勝者は分からない。だが優勝するのはGRCだろう」マックス・びーもうまくまとめる。
「フタバさんは総合優勝の方も?」
「もちろん。4回戦で大量得点を手に入れてKOKの大逆転勝利。カッコいいじゃん?」
「ゆ、夢はありますね」クーは冷や汗を拭った。
 試合の時間が迫る。カリブの海賊の前には全選手が集合している。現地の準備も整ったようだ。
「さあいよいよ、終わりへの始まりが動き出します。4回戦。ダビデ王の騎士団プレゼンツ。カリブの海賊ステージ! この後の解説は現地に任せましょう!! クリケット! よろしく!!
「はいはーい!!」巨大スクリーンには気合い充分のクリケットが映し出された。東京ディズニーランドはすでに明るいが、現場の緊張感がスクリーン越しに伝わってくる。決戦の時が迫っている。
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