第2話 円卓(1) Round table
文字数 1,660文字
フタバたちを口に入れて上昇していたスケルトンエレベーターフィッシュは、ゆっくりと止まり、音もなく滑らかに、フタバたちを吐き出した。
「円卓についたニャ」
猫のトリュフがフタバの腕からおりる。
ーー目にまぶしいなぁ。
たどり着いた階は、クリスタルと水鏡で出来ているように幻想的で、光がふんだんにばらまかれていた。
円卓。
その名の通り、大きな部屋の中心に、部屋の半分を占めるほど大きな丸いテーブルが置かれている。その丸テーブルを囲むように、三十体ほどの生物が雑談を交わしていた。
「にゃあ」
トリュフ一声鳴くと、生物たちは振り向いた。
生物、といったのには訳がある。円卓にいる半分は人だが、奥にいる半分は人ではないからだ。では何かといわれると困るのだが、あえて表現するならば、白鬼や、首の離れたタイツ男や、半分猫のような失敗したゆるキャラや、魔獣や、なんだろう、ヌルヌルとした緑色の陽気な物体、とでもいうのだろうか。
ーーはぁ。固有名詞ってなんて便利なんだろう。人なら人、セバスチャンならセバスチャンというだけでわかるのに、見たことないものを例えようとした途端、固有名詞がわからないからしっちゃかめっちゃかだ。いや、待てよ。だからこそ、詩人としての表現力がアップするのではないだろうか。例えば……。
「遠藤双葉くん」
フタバは突然、自分の固有名詞を呼ばれてビクッとした。
手前の席の大男が立ち上がる。隆々とした髭を蓄えた、威厳のある老人だ。鼻が大きい。フタバは、この男には見覚えがあった。裏社会の人間で知らないものはいない有名人。リアルを事実上支配しているイルミナティ十三血統の一つ、正統なるダビデの血流、ダビデ家の棟梁、グスタフ・ダビデだ。
ダビデ家の棟梁は、代々、アルカディアの頂点である女王陛下により、ナイツ・オブ・キング、KOKの団長に任命されている。グスタフ・ダビデとは社交界で会ったことがあるが、ダビデ王として会うのは初めてだ。あの時は燕尾服だったが、今日はいかめしい、王様然としたマントを羽織っている。頭の上にも、燦然と王冠が輝いている。
ーーしかし……。
フタバは考えた。それ以外に一切の接点がない。社交場で会話した時のことを思い出したが、どう思い出そうとしても あいさつ程度しか交わしていない。
ーーダビデ家にお世話になっている以上、頼られるのならできる限りの事はしたいものだ。だが、再び詩を書いてくれというのはごめんこうむりたい。とはいえ、こんな場所にわざわざ呼び出すということはそんな単純な話ではないだろうが。いや、待てよ。
フタバはここで、一度迷いに方向転換をかけた。
ーーまあいいか。呼び出したということは用事があるということだし、用事があるということはグスタフから声を発するだろう。オイラはそれを聞くだけだ。それよりも円卓の騎士団メンバーを見まわそう。アルカディアンの連中、興味深い外見をしてやがる。
のんびりと騎士団を見回していると、グスタフが握手を求めてきた。フタバはよそ見をしたまま握手を交わす。
「よく来てくれたな」
グスタフはフタバに言った後、円卓を向いて大声を出した。
「この人間が遠藤双葉。私が思う、リアルで最高の頭脳を持つ者である」
「おお」
円卓は拍手に包まれた。
ーーなに? オイラがリアル最高の頭脳? まぁ、頭が悪いと思ったことは一度もないけどさ。でも世の中のことなんて知らないことだらけだし、記憶力はないし、自分より頭のいい人もたくさん知っているぞ。……とはいえ否定するのも面倒だな。なるがままに流れよう。
フタバは立ったまま両手を頭の後ろで組み、ゆっくりとした声で答えた。
「オイラがリアル最高の頭脳だといわれるのはとても光栄なことなんだけどさ。なんで呼んだんです?」
円卓の騎士団は、誰が言うんだとばかりにザワザワとする。
「その件に関しては私がお答えしよう」
奥から、一人の透き通るように繊細な肌をもつ紳士が姿を現した。
「水晶と水鏡の王にしてリアルカディア首長、ジョセフ・シュガーマンだ」
「円卓についたニャ」
猫のトリュフがフタバの腕からおりる。
ーー目にまぶしいなぁ。
たどり着いた階は、クリスタルと水鏡で出来ているように幻想的で、光がふんだんにばらまかれていた。
円卓。
その名の通り、大きな部屋の中心に、部屋の半分を占めるほど大きな丸いテーブルが置かれている。その丸テーブルを囲むように、三十体ほどの生物が雑談を交わしていた。
「にゃあ」
トリュフ一声鳴くと、生物たちは振り向いた。
生物、といったのには訳がある。円卓にいる半分は人だが、奥にいる半分は人ではないからだ。では何かといわれると困るのだが、あえて表現するならば、白鬼や、首の離れたタイツ男や、半分猫のような失敗したゆるキャラや、魔獣や、なんだろう、ヌルヌルとした緑色の陽気な物体、とでもいうのだろうか。
ーーはぁ。固有名詞ってなんて便利なんだろう。人なら人、セバスチャンならセバスチャンというだけでわかるのに、見たことないものを例えようとした途端、固有名詞がわからないからしっちゃかめっちゃかだ。いや、待てよ。だからこそ、詩人としての表現力がアップするのではないだろうか。例えば……。
「遠藤双葉くん」
フタバは突然、自分の固有名詞を呼ばれてビクッとした。
手前の席の大男が立ち上がる。隆々とした髭を蓄えた、威厳のある老人だ。鼻が大きい。フタバは、この男には見覚えがあった。裏社会の人間で知らないものはいない有名人。リアルを事実上支配しているイルミナティ十三血統の一つ、正統なるダビデの血流、ダビデ家の棟梁、グスタフ・ダビデだ。
ダビデ家の棟梁は、代々、アルカディアの頂点である女王陛下により、ナイツ・オブ・キング、KOKの団長に任命されている。グスタフ・ダビデとは社交界で会ったことがあるが、ダビデ王として会うのは初めてだ。あの時は燕尾服だったが、今日はいかめしい、王様然としたマントを羽織っている。頭の上にも、燦然と王冠が輝いている。
ーーしかし……。
フタバは考えた。それ以外に一切の接点がない。社交場で会話した時のことを思い出したが、どう思い出そうとしても あいさつ程度しか交わしていない。
ーーダビデ家にお世話になっている以上、頼られるのならできる限りの事はしたいものだ。だが、再び詩を書いてくれというのはごめんこうむりたい。とはいえ、こんな場所にわざわざ呼び出すということはそんな単純な話ではないだろうが。いや、待てよ。
フタバはここで、一度迷いに方向転換をかけた。
ーーまあいいか。呼び出したということは用事があるということだし、用事があるということはグスタフから声を発するだろう。オイラはそれを聞くだけだ。それよりも円卓の騎士団メンバーを見まわそう。アルカディアンの連中、興味深い外見をしてやがる。
のんびりと騎士団を見回していると、グスタフが握手を求めてきた。フタバはよそ見をしたまま握手を交わす。
「よく来てくれたな」
グスタフはフタバに言った後、円卓を向いて大声を出した。
「この人間が遠藤双葉。私が思う、リアルで最高の頭脳を持つ者である」
「おお」
円卓は拍手に包まれた。
ーーなに? オイラがリアル最高の頭脳? まぁ、頭が悪いと思ったことは一度もないけどさ。でも世の中のことなんて知らないことだらけだし、記憶力はないし、自分より頭のいい人もたくさん知っているぞ。……とはいえ否定するのも面倒だな。なるがままに流れよう。
フタバは立ったまま両手を頭の後ろで組み、ゆっくりとした声で答えた。
「オイラがリアル最高の頭脳だといわれるのはとても光栄なことなんだけどさ。なんで呼んだんです?」
円卓の騎士団は、誰が言うんだとばかりにザワザワとする。
「その件に関しては私がお答えしよう」
奥から、一人の透き通るように繊細な肌をもつ紳士が姿を現した。
「水晶と水鏡の王にしてリアルカディア首長、ジョセフ・シュガーマンだ」