第132話 3回戦(13) Third Round

文字数 1,235文字

 シンプルな演奏に楽器や声が加わってくる。音楽はますます重厚な盛り上がりを魅せる。亡霊楽団の木琴を叩く高音が、サオリの耳に心地よい。
 カラスやフクロウの鳴き声。
 くびれた門から顔を覗かせる亡霊。
 遠くにランタンを持って屋敷を彷徨っている老人と痩せ細った犬。
 その哀れな迷い犬の顔は……下卑たカンショウの顔だった。
ーー来たか!
 今までの経験から、襲撃時には自分の顔が幻覚であらわれることが多い。カンショウは身構えた。
 草木の茂る夜の墓地。
 暗闇に青白き洋顔が浮かぶ。
 左右ガチャ目のどこを向いているかがわからない目つき。
 オポポニーチェだ。
 びっこをひきながら、ただ真っ直ぐカンショウに向かってくる。幻覚だとは思えない。
ーー正々堂々? 真正面から来る? いや、バカな。
 人は目に見えるものを信用する。だが、現状においては信用してはいけない。このオポポニーチェが現実のはずがない。景色も気配も全てが偽物だ。
ーー今は見る時ではない。観る時だ。
 考え方は間違っていない。だが、百戦錬磨でない限り、緊急時に観察することは難しい。道場武道家のカンショウには気づけなかった。暗くて足場の悪い墓石だらけの急坂を、エスカレーターのように真っ直ぐ登ってくるオポポニーチェの異常さに。
 オポポニーェは無警戒に歩みを止めず、カンショウの元まで近づいてきた。
「私はね」オポポニーチェは、黒い歯をむき出しにして笑う。
「普通に闘っても……強いのですよ!」
 一触即発。
 言うと同時に、ビニール袋のようにフワリと跳び上がり、カンショウの乗っているドゥームバギーに足をかけようとする。
ーーさせるか! 鳳凰墜落脚!!
 カンショウは必殺の上段足先蹴りを放った。
ーー当たった!
 が、感触がない。
 オポポニーチェの姿が消える。
ーーやはり幻覚!!
 ヒヤリと背中に気配。
ーー回転風神拳!
 動きを止めずに裏拳。どこかに当たれば儲けもんだ。そこから連撃に繋ぐことができる。
 だが、これも空振る。
「でもね、」空振りした空間から、オポポニーェの声が聞こえる。
ーー近い!
 声のする方向を再度攻撃。これも感触はない。
ーーなっ。
 気づくとカンショウは、6人のオポポニーチェに囲まれていた。
「やっぱりこうやって、人をたぶらかして遊びたいのですよ。オーポポポポポポ」オポポニーチェは、それぞれバラバラのリズムで笑った。
ーーしゃらくせー。
 カンショウは次々と次々と連撃を繰り出すが、まるで煙に攻撃しているようだ。当たる感触がない。

 ギンジロウは、今が天王山だと直感した。
ーーオポポニーチェの本物は分からない。だが、カンショウが攻撃されていることは間違いない。
 残すエリアは墓場とヒッチハイクと出口だけ。あと3エリアしかない。
ーーボルサリーノは身をかがめて震えているだけだ。すぐに倒せる。それよりも、ここで時間を稼ごう。俺たちが生き残る可能性は高くなる。
「観照! 助力する!」
 ギンジロウは立ち上がり、後方で戦うカンショウに近づいていった。
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