第42話 ヒナ(4) Hina

文字数 2,134文字

「さて、ここまで3組をご紹介いたしました。続いて、最後の4組目です。4組目は、またもや13血流、バンディ家からの推薦で、黄金薔薇十字団です!」
ーーえっ! GRC! 今度こそ、絶対ダメなやつじゃん!!
 黄金薔薇十字団は、世界で十指に入るほど有名な歴史ある錬金術の秘密結社だ。これほど有名な錬金術の秘密結社には、もちろん高名な錬金術師以外は入団できない。
「GRCは、さすがにCランクの団員なんていないのではないのか?」
 クーは、顔を上げずに答えた。
「はい。団員は全て、自動的にBランクになってしまいますね。ただし、Bランクとはいえ、実績のない入団したてのルーキー1人と、ランクすらつかないホムンクルス2体、合計3人でのハンデ戦ならどうか、という提案をいただきましたので、これを受理いたしました」
ーーホムンクルス? 実在してるの?
 ホムンクルスとは、16世紀半ば、高名な錬金術師、パラケルススが精製した人工人間だ。小さな人を意味する。パラケルスス以外の人間が作れたという結果がないので、実在しないものだと思われている。が、これもまた、本物がザ・ゲームに出場してきたら面白い。
「まずは、ホムンクルスの2体を紹介いたします。フォーとシザーです」
 ヒナは、フォーとシザーの資料を見た。両者とも身長185センチ、体重75キロとなっている。写真は、スーツを着ている若いフランス人風だが、顔に特徴がない。まるでマネキンのようだ。フォーとシザーの違いは、サラサラとした金髪の髪型が7対3で分けられているか、3対7で分けられているかの違いしかない。黒子もアザもない。 
「ホムンクルス……。本当に人間ではないのじゃな?」
「はい。委員会の追加調査で、やはり人間とは違う部分がいくつも見受けられました。人工人間です。彼らはホムンクルスで間違いないでしょう。彼らのモデルにも会いました」
ーーそれは比べて見たいものだな。さぞかしイケメンなのだろう。
 クーは次をめくる。
「そして、彼がルーキーであり、このホムンクルス2体の生みの親、オポポニーチェ・フラテルニタティスです」
「オポポニーチェ? あの、穢れた薔薇のオポポニーチェ?」
 奇怪なシルクハットを被った背の低い紳士。体のバランスも悪く、ちょび髭にギョロリと目からはみ出ている眼球。目の周りを真っ黒に塗った化粧。何本もの三つ編みが帽子の後ろからはみ出ている。
ーーこの目。異常者の目だ。わたしでもはっきりと分かる!
 ヒナは一目で、彼が、あの有名なオポポニーチェであることを確信した。
 かつて薔薇十字団で40人以上の死者を出した人体実験の首謀者であり、表に事件として発覚しなかったにも関わらず、薔薇十字団から脱退させられた、薔薇堕ちのオポポニーチェ。
「なぜ彼が薔薇十字団ではなく、そこから派生した黄金薔薇十字団ではあるものの、再び薔薇に入団しているのだ? 完全な人殺しだぞ? しかもルーキー? 彼は何十年前からか、確かA+ランクだったはず。どう考えても、Bランクのルーキーでは無かろう」
 クーは目を合わせないで説明した。
「いえ。それが驚くべきことに、彼は、穢れた薔薇のオポポニーチェとは別人なのです。あのオポポニーチェは服毒自殺いたしました。何十人もが、死体を直接見て、確認しております」
「それでは、彼は何者なのだ?」
「誰も知らない。実績もない。ですからルーキーなのです」
ーーそんな強引なこと……、あっていいのか?
 ヒナは、何か裏があるような気がした。ダビデ王の騎士団に黄金薔薇十字団。ダビデ家にバンディ家。Cランクのザ・ゲームに、有名組織や13血流の名前が出てくること自体が異常だ。

「今回のザ・ゲーム、御本尊であるドクロを取り返したい真言立川流。真言立川流と決着をつけたいリリウス・ヌドリーナ。危険なオーパーツを保護しようとするKOK。それぞれの組織の参戦理由はわかった。だが、GRCが参加したい理由はなんなのじゃ?」
 選手の選択について、ヒナは今まで一度も意見をしたことがない。クーは、明らかに戸惑いを見せた。
「それは……、確か……、そう。確か、GRCは、錬金術の材料として、貴人の骨を細かく砕いた粉末が必要だそうです」
ーーなるほど。確かにちゃんとした理由はあるんだな。気持ち悪いけど。
 それでもヒナは、何か引っかかるものがあった。
 クーは珍しく饒舌になった。
「でもヒナ様。GRCの参戦は、面白い試合になりそうではないですか? オポポニーチェが、もし、あの穢れた薔薇のオポポニーチェだとしても。フタバエンド推薦選手とオポポニーチェのザ・ゲーム。私には、今回の興行の成功が目に浮かびますよ」
 ヒナはクーの言葉を聞いて、ようやく自分の心が理解できた。
ーーそうか。私、エスゼロのことが心配なんだ。いくらフタバエンドの推薦選手とはいえ、Cランクのザ・ゲームで、いきなりAランクの選手とぶつかることになるとは、いくらフタバエンドでも思ってはいないもの。大丈夫かな、エスゼロ……。
 一度めくったページは戻ることができる。ヒナはページをめくってサオリのページに戻した。サオリの写真は、ジャージを着て、無愛想にピースをしている。
 ヒナは、鼻から軽くため息をついた。
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