第186話 猫また 徒然草89

文字数 692文字

□「奥山に、猫またというものがおって、人を食うそうだ」と人の言いけるに、「山でなくても、この辺にも猫の年を取って怪物になり、猫またになって、人を食うことがあるそうな」と言う者ありけるを、何阿弥陀仏とかいう、連歌をする法師が、行願寺の辺に住んでいたのが聞いて、一人歩きをする身には心すべきことだと思っていた頃、京の下にある所で、夜更けるまで連歌して、ただ一人で帰っていた時、小川の端にて、音に聞きし猫またが、あやまたず、足元へふっと寄り来て、やがて飛びつくと同時に、頸の辺りを食おうとする。肝つぶれ心も失せて、防ごうとするが力もなく足も立たず、小川へ転び入りてしまった、「助けてくれ、猫まただ、猫まただ」と叫んだので、家々より松明などを灯して走り寄りて見れば、この辺に住む顔見知りの僧だった。「これは如何されたか」と言って、川の中より起こしたれば、連歌の賭物を取って、扇、小箱などを懐に持っていたが、水に浸かっていた。希有にして助った様子をして、ほうほうの態で家に入っていった。飼っている犬が、暗けれど主人を知って、飛び付いたということだった。
※猫はネズミを食う肉食動物だが、人の肉も食うのかもしれない。おとなしくしているようで、こっそりと何かをするような感じがするし、犬のように愛想を振りまかない。鎖でつながなくても、家に帰ってくる。野良犬は最近は見かけない、が野良猫は所々に住んでいる。うちの庭にも
顔付の悪いドラ猫が、堂々と通り過ぎ、大きなフンをしていく。犬より猫の方が自由な感じがする。猫騒動は当時、猫又が流行していたようである。犬は喜び飛びついてくるが、猫は首筋に噛みつく。
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