第179話 本の装丁・表紙 徒然草82

文字数 718文字

□「羅(ら:音読み うすもの:訓読み)を貼った薄い絹織物の表紙は、早く傷むのでつまらん」と人が言ったのに、頓阿が、「羅は上下がほつれ、貝殻の真珠色に光る部分を切り取った螺鈿(らでん)の巻軸は貝が落ちた後ほど素晴らしいのです」と申されましたが、成程と思わされました。一部ちょっとした草子・巻物などで、同じような表紙でないと見映えが悪いと言ったりするが、弘融僧都が、「物を必ず一揃いに整えようとするのは、愚か者がすることで、不揃いな物こそいいものだ」と言われたのも、尤もなこと思われた。すべて何事も皆、ことが整った状態は悪しきことである。し残したところをそのままにして置いているのは、面白く、ほっと安心するわざである。「内裏を造られるときも、必ず作り果てぬ所を残すのである」と、ある人申されていました。先賢の作られた内外の文にも、章段の欠けているところがあるにです。
※薄手の絹織物で本の表紙を作ったのでしょうが、取扱中に薄絹が痛んできて、糸がほつれたりするのでしょう。鎌倉時代の本は和紙に書かれ、表紙を厚紙にして布等で綴じたのでしょうか。また巻物にして表紙を別の和紙でくるむ為に造り、薄絹をはりつけた物でしょうか。軸は掛け軸かなと思いましたが、巻物にも軸があり、その軸のことですかね。わかりませんが。草子とあるのが本で、巻物が別に書いてあるので、それぞれに表紙があったのでしょう。兎に角、びしっと全巻同じ体裁で整っている物は、愚かな人がそうするもので、賢人は何度もその書を読み、手垢がつき、表紙の絹糸が痛んでいる方が、最高なのだというのでしょうか。テレビで見る有名人が、背後の戸棚に、立派な書籍が並んで居るのは、見せびらかしでしょうか。
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