第147話 女鬼現る 徒然草50

文字数 562文字

□応長のころ、伊勢国より、女が鬼になったのを一緒に連れて都にきたということがあって、そのころ20日間ばかり、日毎に、京・白川の人、鬼見物にと出でまどう。「昨日は西園寺に参ったし」、「ただ今はそこそこに」など言いあえり。本当に見たと言う人もなく、虚言だと言う人もなし。すべての人が、ただ鬼のことのみ言いやまない。その頃、東山より安居院辺へ出かけて行ったところ、四条より上の人、皆、北をさして走る。「一条室町に鬼がいる」と大声で騒いでいた。今出川の辺より見ると、院の御桟敷のあたりは、さらに通ることもできず、たてこんでいた。やはり、前代未聞のことでもなかったのだろうと思い、人を遣りて見させたところ、ほとんどが逢えたという者はいなかった。日暮れるまでかく立ち騒ぎまくり、果ては喧嘩がおこり、ただただ呆れることばかりだった。その頃、おしなべて、二、三日人の病人がでたという。「かの鬼の虚言はこの病の印を示すだったのだ」と言う人もいた。
※人のうわさがが広がり、もっともらしい真実のように、人々に伝わる。実際は何もなかったのだが、そのころ熱がでて赤鬼の顔のようになった女の人がいたのだろう。悪い予兆と鬼が合体し、人々を驚かしていたのだろうか。昔は科学的な伝達機能もなく、伝達は人の口だったから、この鬼が出現した。疑心暗鬼ともいう。
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