第233話 深い理由なし 徒然草236

文字数 661文字

□丹波の国に出雲という所がある。大社を移して立派に造った。しだの某とかが関知する所なので、秋の頃、聖海上人や、その外の人大勢誘い、「さあ、出雲を拝みに。ぼた餅をご馳走しましょう」といって、連れて行ったところ、おのおのが拝んで、深く信心をおこした。社殿の御前にある獅子・狛犬が、背中を向け後さまに立っているので、上人はいたく感心して、「なんとお目出度いことでしょう。この獅子の立ちよう、とてもめずらしい。深き理由があるのでしょう」と涙ぐんで、「いかがですか、皆さん、こんなに素晴らしい事をご覧になっていて、分からないのですか」と言うので、皆は不思議がって、「まことに他とは異なっている。都の土産話に語ろう」などと言うと、上人はなほ詳しく知りたがって、温和な物知りのような顔をした神官を呼んで、「この御社の獅子の立てられようは、定めて謂われのあることでしょう。ちと承りたい」と言われたところ、「そのことでありますが。いたずら童どもの仕業で怪しからぬことです」と言って、傍に寄り、獅子と狛犬を据え直して立ち去ったので、上人の感涙無駄なことになりにけり。
※京都府亀岡市千歳町千歳出雲にある出雲大神宮のことで、島根の出雲大社とは違うらしい。江戸時代末までは「出雲の神」と言えば出雲大神宮を指していたとされる。京都から島根はかなり遠くて行くのに大変だったでしょうが、京都府内であれば、まだ近く、分かる気もします。上人様の顔丸つぶれですね。先に神官に聞いてから、偉そうに民衆へ話したら良かったのと兼好先生は苦笑されているのでしょう。
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