第212話 最明寺入道 北条時頼 徒然草215

文字数 580文字

□平 宣時朝臣が、老いた後、昔の物語りに「最明寺入道が、ある宵の間に呼ばれることがあって、『ただちに』と申しながら、直垂がなくて、あれやこれや捜してるうちに、また使いがやって来て、『直垂などがないのですか。夜でありますので、異様な格好でも宜しいので早く来て下さい』と言われるので、よれよれの直垂で、普段のままで罷りましたところ、銚子に土器を取り添えて持って出てこられ、『この酒を一人で飲もうと思ったが、心寂びしいので、お呼びしたのです。肴こそなけれ、人は静まりかえっているだろう。適当な物があるでしょうから、何処でも捜し求めて下され』と仰ったので、紙燭をつけて、隅々を求めしほどに、台所の棚に、小土器に味噌の少し付いたのを見つけ出し『これぞ捜し求めることが出来ました』と申しあげると、『それで、こと足りようではないか』といって、心地よく盃を数献に及び、興に入られ楽しく時間を過ごされた。その時世では、こようなことがあったのです」と申されたのである。
※鎌倉幕府の名執権といわれた北条時頼は執権職を10年務め、30才で出家して最明寺入道時頼と号した。時頼は入道となり身分を隠して諸国を巡遊し、地方の実情を観察するとともに、困窮しているものを救ったという逸話が数多く残されています。水戸黄門も最明寺入道を見習ったのだろうか。なかなか味のある人物だったようですね。
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