第216話 笙の音階 徒然草219

文字数 1,124文字

□四条黄門命ぜられていわく「笙の名人といわれる龍秋はこの道にとりては貴重な者である。先日、来て言うには、『短慮の至りですが、極めて口にだすのも恐れ多いことですが、横笛の五の穴は、いささか不審な所があるようにと、ひそかに思っております。その理由は、干の穴は平調、五の穴は下無調である。その間に勝絶頂を隔てている。上の穴は双調である。次に鳧鐘調(フショウチョウ)を置いて、夕の穴である黄鐘調(オウシキチョウ)がある。その次に鶯鏡調(ランケイチョウ)を置いて、中の穴である盤渉調(バンシキチョウ)があるが。中と六との間に神仙調(シンセンチョウ)がある。このように、穴の間に皆一律にをぬすめるに、五の穴のみ上の間に銚子を持たずして、しかも間隔は他の所と同じであるのでその音は不協和音である。ですからこの五の穴を吹く時は、必ず口を外し吹く。口を外せない時は他の楽器と合いません。ここを吹くことが出来る人は少ない』と申されました。思慮深い話で、まことに興味深いものがある。先輩が後輩を畏敬するということは、このようなことである」ということです。他日、笛の名人でる景茂が申しますには、「笙は調律を終えて持つならば、ただ吹くばかりなのである。笛は吹きながら、息をするうちに、かつ調べをもっていく物であるので、穴ごとに、口伝があるので気骨をもって、心を入れ吹くこと、五の穴のみにかぎらないのである。ひとへに口を離すばかりとは定めるものではない。悪しく吹けばいづれの穴も聴く人は心地よくないのである。上手な人はいづれをも正しく吹き合わせるものだ。音階が合わないのは演奏する人に咎がある。器楽の欠陥にあらず」と申したのである。
※専門用語でよくわ分かりませんが、兼好先生は楽器を演奏され、かなり詳しかったのでありましょう。笙の吹きかたは楽器に欠陥があるのではなく、吹く人が未熟であると、音階を外したり、不協和な音になり、合奏と上手く溶け合わず、下手くそと思うのでしょう。各穴にも名称があり、穴と穴の間にも名前があるのですか。ドレミファとかはなかったので、和楽はまた独特な領域なのでしょう。
※2 笛の名人の景茂がいう「笙は調律を終え」とあるが、調律には京都のお寺の梵鐘の叩く音色で行うというのがあった。R4年4月18日、妙心寺の花園会館に泊り、妙心寺を見学した。花園天皇の出家後のお住まいが妙心寺だったという。広大な敷地の中に大昔に建てられたお堂がある。天井には龍の絵が狩野探幽によって描かれたものである。その中に梵鐘があり、大晦日に除夜の鐘で一番最初に叩かれたもので、日本最古の鐘だという。その音色が、当時の楽器を調律する際の基準となったと、係の人が説明していた。
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