第1話 寸陰惜しむ人なし 徒然草108

文字数 582文字

□一秒を無駄にしたと惜しむ人はいない。これは、よく知っているか、愚かで知らないか、愚かで怠慢な人のために、言うならば、一銭は軽いといっても、これを積み重ねていけば、貧乏人でも大金持ちになる。されば、商人が一銭を惜しむ心は、切実である。一瞬の時間など意識していられないと思っていると、いつの間にか、人生は終わってしまう。
仏道を修行する人は、先の将来のことを、思い悩む前に、ただ今の一念一瞬が空しく過ぎることを惜しむべきである。もし、人が来て、我が命、明日は必ず失われると告げ知らせられたら、今日の日が暮れる迄の間、何事をたのみ、何事をするだろうか。我等が生ける今日の日は、どうしてその死ぬと定められた日と異なるだろうか。一日のうちに、飲食、大小便・睡眠、言語・行歩、やむことを得ずして、多くの時間を失う。その余りの閑な時間が、いくらもない内に、無益なことを為し、無益のことを言い、無益のことを思い残り時間を過ごすのみならず、日を消費し、月を徒過して、一生を送る、もっとも愚かなり。
宋の貴族・謝霊運は、法華卿の筆受をした程の人であったけれど、心は常に風雲の興を鑑賞していたので、恵遠や白蓮との交わりを許さなかった。僅かな時間を惜しむ心がないのは、死人と同じである。光陰を何のために惜しむかとならば、内に思慮なく外に政事なくして、やまん人はやみ、修せん人は修せよとなり。
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